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蒸気ロボット仮想戦史 ゴールドラッシュ&ゴールデンエイジ  作者: 白金桜花
第六章:大逆境!それでも私はくじけない!
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その7

何時間か後の昼ごろ、予定していた待機地点……崖の下の、暗い谷間に大隊の船を待機させる。

こういう時に飛空艇は便利で、待機させるだけで即席のキャンプになるのが強みね。


その後全員が着陸したのを確認すると、私達は雇った傭兵団の隊長や、フジオカ隊長を私の船の船内食堂に呼び、会議を始めた。

「さてと……今、状況を確認しに行くべきか……キャロル大尉はどう思う?」

フジオカ隊長だ、確かに到着した訳だけど……夜行けば近づかない限り状況はつかめないでしょうし、どうしたものかしらね……

「……夜に行くと言う手もあるけど……やっぱり音でバレるわよね……」

「ああ、夜間偵察の場合は陸路を使うべきだろうな……」

若い、20代ぐらいの傭兵団長が意見を言う。

彼の名前はベイル、彼はリチェットの保安官時代からの付き合いらしいけど……彼氏?な訳ないわよね。

「けど逆に昼の場合、戦闘中なら環境音に紛れる事が出来る、というのは強みよね」

「ああ、だとすれば……一先ず俺達の船の一つが高高度を飛び、蒸機鎧の望遠機能により偵察を行うのがベストだろう」

フジオカ隊長だ。

「……ジパングのムラマサ型の望遠限界はどのぐらいだ?」

博士がその言葉に反応を示す……珍しいわね、作戦会議の時なんて殆ど黙っているのに。

「望遠限界は6倍程度だが……まぁ長距離砲撃をやるコンセプトではないからな」

「そうか、なら望遠限界が20倍の、こちらのゼロが適役か」

「……私が偵察担当?」

少し驚く、あの機体に一体どのぐらい性能詰め込んだのよ……

「ああ、だがクロススラスターは不安定な代物だ、ジパング軍の飛空艇に乗せてもらっての望遠偵察が得策だろう」

「……ふむ、此方としても米国機は非常に興味深い、我々としても歓迎しよう」

「決まり、ですわね」

「……そうね、すぐに搭乗してそちらの飛空艇に乗るわ、フジオカ隊長、どの船に乗ればいいのか案内役をお願い」

私はフジオカ隊長に対し、握手の手を差し出す。

「ああ、わかった」

フジオカ隊長は私の手を、きちんと握って握手をした。


フジオカ隊長が指定した船の前に私はゼロに乗りながら立ち、準備が終わるのを待つ。

ジパング製の飛空艇は即座に偵察ができるように崖の上に置かれており、敵が居るとされ方角を前面に向け、前面にだけ蒸機鎧用の迷彩マントをかけてわかりづらくしていた。

ジパング製の飛空艇は後ろに蒸機鎧を格納するエリアがあり、戦ってる時はよく解らなかったけど、そこから出撃するのね……

甲板は本来蒸機鎧を乗せる場所ではないらしく、テーブルだのなんだのを固定してた為かあわただしく取り外している作業の中だった。

「蒸機鎧を砲台として使わないのね……」

私はそれを眺めながら呟く。

「……悪い、蒸機鎧に乗ったまま何か喋られると少し怖い」

作業をしているジントが、私の声に反応する。けど手は休めず、ドライバーでテーブルの固定を外し、それをイチモンジさんに渡し、また別のテーブルにドライバーを回す。

「え?」

「だから、その鬼のような外見で声をかけられたら怖いって言ってるんだ……悪い」

「……ごめん」

私は謝る、うーん……鬼って確か、東洋では悪魔みたいな位置よねぇ……博士も威圧感を出す為にそんな頭にしたのだろうけど……まぁいいわ。

私は機体を座らせた後、一端ゼロとの意識接続を遮断し、機体を止めベルトを外し、コックピットを開ける。

青い空と荒野の風が入ってきて、爽やかな気分になる。

こんな時でなきゃいい気分を満喫できたのに……

そう思いながら、機体につけられてたドリンクポットを手に乗り、つけられてたストローから水を飲む。

水は蒸機鎧を動かす重要要素だ、水と永燃石の2つの要素により蒸機鎧は駆動する。

永燃石は一端燃えたらかなり長く燃え続ける石で、それにより水を沸かし他時に水蒸気に混じったアカシャ粒子のエネルギーを得て動くのが蒸機鎧。

すぐに着火するために蒸機鎧の永燃石には着火用のガスを使うのよね……

まぁ、水が無ければよく燃える石なだけだけど……私の体は永燃石のある場所に食物を入れて消し炭にし、水は水入れに入って動く、だから水が切れると体が止まっちゃうように思えるけど……

稼働は蒸気機関で造られるアカシャ粒子だから、割と効率がいいのか一日2杯のコップに入った水でも大丈夫なのよね……


それにしても機械の体にも慣れたものだと、私はつくづく思う。

手を動かすと、がちゃがちゃという動きが聞こえる、機械の駆動音だ。

前来夏と話したけど、普通の女の子ならこんな事になったら泣いちゃうと言っていた。

人間じゃなくなったとか、お嫁にいけないとか、私にはそうは思わないけど、アムやリンに聞くべきだったかしらね……

どうも私はやっぱり、少し普通の女の子とズレてるのかもしれない。


「終わったぞ、直ぐに甲板に乗り込んでくれ……ただしゆっくり座ってくれよ?」

ジントがそう、作業を終わった事を伝えに私の前に現れる。

そう言えばコイツ、ナルについてはどうしたのかしら……まぁ、飛んでる途中に出も聞けばいいわね。

「解ったわ」

私はそう言うと、ゼロに乗り込みコックピットのハッチを閉め、また耳の後ろにコネクタを接続し、キーを入れ意識をゼロに移す。

そしてゼロを立ち上げ、飛空艇の甲板に乗り込む、甲板の表面はきちんと金属製だけど……重さで壊れないわよね。

「終わったわ」

私がそう言うと、すぐに飛空艇の両側面合計6つのジャイロが動き出し、どんどんと浮上する。

甲板の大きさはそれなりだけど、通常の蒸機鎧を固定するアンカーを付けるための部分が無いのが気になるわね……

「これから上空2kmまで上昇する、いいな?」

ジントの声だ。

「あれ?ジントあなた蒸機鎧のパイロットじゃなかったの?」

「隊長がやれって言ったんだよ……まぁ、こんな仕事は柄ではないのは解るけど、昔からの知り合いだと言ったら制御をやってくれとそう言われたんだ」

「なるほどね……あ、そう言えばナルはどうしたの?仲良くしてる?」

「心配しなくても仲は大丈夫さ、解れたりもしないし留学自体は続いてる」

「なるほど……って、問題ないの……?」

「まぁ、ここだけの話だがジ米露の3国間同盟も予定されている。それに先駆けての留学なんだ、大体やましい事は俺は全くやってない、むしろ捕えられた米国市民を助け出して表彰されるべきだと思わないか?」

ジントは少し熱く語る……確かロシアも欧州とは仲が悪かったのよね……

ジパング・アメリカ・ロシアの極東及び極西同盟……逆卍団が派手に動くのも、その同盟を破壊する為というのも一つなのかしら?

「うーん、まぁ、ジパング軍の活躍があって助かったから私は感謝してるわよ、友達も無事だったし」

私は明るい風に言う、けど、そう言われても結局の所やましくなくても、素性を隠してたら何かやったんじゃないかって疑われて当然よね……ま、黙っておくけど。


そうしてジントと話をしていると、すぐに飛空艇は目的の高度まで達する。

「予定高度達成したぞ、索敵頼む」

その声が聞こえると同時に、私は視覚を拡大させる、1倍、2倍、3倍、そして10倍に拡大して、地上を見下ろす。

首の角度を1度変えただけでも凄い見える場所が変わるため、倍率を何度も調整し、ようやく目的地と思わしき場所を視界に捉えた。

そこには巨大な……あの時張り付いた逆卍党の巨大戦艦が待機していた。

大量の蒸機鎧を布陣して、その先には巨大な白い円盤みたいな……遺跡の外壁みたいなものが、岩盤からむき出しになっている。

アレン達の飛空艇もその遺跡を挟むようにして、逆卍党と向き合って交戦しているのが見えた。

でも、アレンの機体は見えない……一端休憩中なのかしら……

どこかの採掘場の跡なのかしら……その遺跡の周囲だけ、刳り貫かれたようになっているのが特徴的ね……でも、遺跡って……私が見た夢だと、遺跡なんて作れる文明は残って無かった筈。

だとするとアレって……



そう思った時だった。



視界が妙に、揺れた感じがした。



「た、隊長!地面が揺れて……じ、地震です!」

来夏の声が聞こえる……地震?


やな予感が私の脳裏を過ぎる。

アレン達の飛空艇が、続々と飛び去る。



次の瞬間だった。



轟音が鳴り、その遺跡の周囲の岩壁が崩れ去り、そして……





遺跡が浮上した。





性格には遺跡ではない、空中戦艦と言ってもいい代物だった。

それは、島の半分程の大きさの逆卍党の飛空艇の何倍も巨大な、白く、無機質な船だった。

轟音が鳴り止み、静寂が訪れる。

「……何だ、あれは……」

ジントが驚きの声を発する。

「……こちらデルタ部隊隊長のキャロル。偵察中に超大型空中戦艦の浮遊を確認したわ……そっちの損害はどう?」

「だ、大丈夫ですよ……ちょっと少し崩れた崖とかはありますけど、ただ傭兵隊の飛空一機が怖がって強引に飛んで、崖に当たっちゃったみたいで……」

来夏の声が返ってきて、安心する。

けど、この状況は喜ばしいものとは言えなかった。

「リチェットはどうしてる?」

「外で傭兵隊の手綱を握ってますよ、大丈夫、私より肝は据わってますから」

「じゃあ、負傷者については丸投げしても大丈夫ね……こちらは観測を続けるわ」

そう私は言うと、また観測に集中する。


巨大飛空艇と巨大飛行戦艦は睨み合いを始め、さり気なく飛行戦艦は前方に無数にあるハッチを開き、アレン達の飛空艇は戦艦の中に合流しようと入って行く。

結構大きいはずの飛空艇が無数のハッチの中に入って行く感覚に、私はちょっと困惑した……大きすぎよ……なにあれ。

というか、ひょっとしてあの戦艦……普通に動けばあんな逆卍党の飛空艇ぐらい落とせるわよね……主砲とかが飛空艇と同じで搭載されていない?

そう思った次の瞬間だった。

逆卍党の蒸機鎧の何機かが、収容されようとするアレンの飛空艇に高速で接近、船体を切り裂き、撃墜させる……

そう、武装が付いてないと判断して先手を打ったのだ。

乱戦が始まり、激戦となる。

その中には見た事もない、赤い機体もあり、長い大砲を二挺持ち、それを飛行中に撃っている姿があった。

恐らく真作鎧か、大典太と同じ名贋作よね……


「……全軍に通達、南軍残党は遺跡に眠っていた超兵器である超大型飛行戦艦を起動し、戦況は最終局面に到達した模様。ただし、南軍残党は超兵器の機能の掌握を行っていない……あの超兵器が完全稼働する前に討つ手段は1つ、敵中枢に突入し、制御圏を奪う事よ……要するに、今乱戦で大荒れているうちに敵戦艦にこれから突入する事を提案するけど、対案は?」

私はそう通信を行う……何かもういきあたりばったりね、結局策を練っても突撃しかないって……はぁ。

「おいおい、もう突撃かよ……」

「けどヤバいんだろそれって?あの隊長さんが言うからにはさ」

「俺は行くぜ、南軍の糞どもも逆卍のアホもどっちも嫌いだ……第一そのために金詰まれたんだろ?」

「っ……ああもうわかった、俺もいくぞ!どうせ後戻りはできないんだ!もう何でもきやがれ!」

傭兵達は私が通信した回線を使って議論を交わし、そして賛同していく……離反者は少なそうね。

「突撃か……今が一世一隅の好機と見た、ジパング軍は貴殿の考えに賛同をしよう」

フジオカ隊長からも返信が来る、作戦に賛同……なら、もう止まる必要はないわね。

今叩かなければあの戦艦で何をしでかすかわからない、だとすれば今が最大にして唯一のチャンスよ。

「リチェット、北側に配置してる保安官隊とは連絡がつく?」

「ええ、問題ないですわ……突撃は同期させます?」

「うん、お願い……さてと、ジント、この飛空艇も一旦着地させない?」

「解った、落ちない様に気を付けてくれ……全く、僕も面倒に巻き込まれたものだよ」

そうジントは言うと、ぐらっと少し揺れた後、飛空艇は高度を下げ始めた。


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