その4
「はぁ……はぁ……はぁ……ついたよ」
アムが体力を使いすぎたのか走り終えると、激しく呼吸を行い続ける。
「うう、へとへと……何でキャロルちゃんそんなにバテてないの?」
リンもけろりとしている私に、疑問の言葉を出す。
私としてはあんまり体力を使った訳ではないけど、リンもアムもかなり疲れているみたいに見えた。
「鍛え方が違うのよ、鍛え方がね?」
私はそう笑顔で言った後周囲を見回し尾行が居ないことを確認し、
安心するとその後目的地のお店と思わしき看板を見る、ファンシーできれいな装飾がされた、ポップなオカルト系グッズショップだった。
<イドリス魔法雑貨店>そう看板には書かれており、イドリスという人が店長なのかなと考える。
「とりあえずついたし、店長のお茶でも飲もうよ……」
そう、へとへとのアムは体を動かし、お店の扉を開けて入る。
私もそれについて行くように、お店の中に入った。
お店の中は煌びやかなオイルランプが天井に吊るされており、さまざまというか雑多でごった煮な、
どっかの部族のお面が売ってあると思ったらチャイナ系の壺が置いてあったり、かと思ったらジパングの刀置いてあったりと統一性はないけど、何処か居心地のいい場所だった。
そしてその奥に何個かの円形のテーブルが置いてあり、そこに店長と思わしき人が居た。
「あら、ごきげんよう」
それはアラブ系の褐色の肌、金色の美しい髪の、19歳ぐらいの女の人だった、
尖った長い耳がまるでファンタジー小説の住人のような神秘的な感じのする人、えーと……エルフって言うのかしら?
あんな感じの長い耳をした女の人ね。
「すみません、休ませて~」
アムはふらふらと奥の椅子に腰をかける。
すると店長は奥からティーカップを持ってきて、すぐにお茶を入れてアムに渡したわ。
アムはごくごくとお茶を飲み、リンもそれにつられてアムの向かいの席に座ると、店長は同じくお茶を差し出した。
「貴方はいいの?キャロル・ホリディさん」
店長は私の名前を言い当てた、ドキっとした気分に私はなる。
「な、何で名前を?」
「そうね、これでも魔女だからかしら?」
手品師や魔術師というのを私は全く信じなかったけど、いきなり名前を当てたというのは流石にびっくり。
けど、アムの知り合いならアムが私の名前を言ったのかなと私はすぐに思って、これ以上の詮索は怖いからやめようって結論づけたわ。
店長さんはすぐにお茶の入ったティーカップを私に近づいて渡す、ティーカップは冷えていて、どこかの異国のお茶なのかと私は思った。
「水出しの麦茶よ、ジパングの商品なの」
「このお店、ジパングのものが多いですね」
「そうね……私の恋人もジパングの人だったから、かしら」
店長さんがそう言う顔は、どこか寂しげであった、恋人と別れたのかな?と私は結論づけ、詮索はよそうと決めた。
私も椅子に座り、お茶を飲む、冷えていていい気分になるお茶だった。
「それで貴方は、どんな魔法がお望みかしら?」
向かいに座った店長さんが私に聞く。
魔法、と言われても私はそんなご利益に縋るような立場では今は無いというのに。
「そうですね……うーん……」
「……貴方は今日が運命の日になる、その決断で貴方は死ぬかもしれない、生き残るかもしれない、死ぬよりも酷い業を背負うのかもしれない、けど、死を望まないで、前に生きたいのなら少しの手助けをすることは出来るわ」
そう、店長さんは真剣な顔で言った。
こうして見ると、店長さんの顔は私と同じぐらいにあどけなく、金色のロングヘアーがどこか大人びた雰囲気を出しているだけだと気付く。
けど、私と同い年ぐらいの筈なのに、どこかその言葉には重みみたいなのが感じられて、本当にこの日が運命の日なのかと思えてくるわね……雰囲気作りが上手い人ね。
「……10ドル、10ドルで一つだけ、貴方が欲しいものを売ってあげるわ」
そう店長は、すこしの沈黙の後に口を開いた。
そこまで売れていないのだろうかと私は考えるけど、それにしては言葉や身振りが妙に煌びやかで余裕が感じられ、そういう訳ではないことを認識する。
そして私は椅子から立ち上がり、店の中を物色する。
店には様々なものが並んでいた。
蒸気仕掛けの小型自動舞踏人形。
見たこともない形の巨大な銃。
永遠に砂が黒い穴に落ちていく不思議な砂時計。
琥珀色の望遠鏡。
ダマスカスのような斑模様の、切っ先があまりにも鋭すぎて恐怖すら感じる神秘の短剣という札が貼られガラス箱のなかに動かしても刃がどこにも当たらないように皮で拘束された短剣。
真理計という札が貼られたよくわからない黄金の羅針盤のようなもの。
様々なよくわからない、けど神秘的なものがあった。
でも私が欲しいものとは違い、私は何かを求めていた。
何かはわからない、けど探して、様々な所を見て回る。
そして、一つの赤い箱を見つけた。
これだ、これに違いない、そう、私は直観的にその箱が必要とするものだと感じていた。
赤い箱を開く、その中には銀色の、ガラスか何かで覆われたプレートのようなものと、一枚の写真があった。
どこか解らない草原で、白黒じゃなくて色のついた写真で、まだ髪がセミロングで本当に私より年下みたいな店長さんと、20歳ぐらいの髪の長い黒い髪の、綺麗なジパング系の男の人……多分、店長さんの言った恋人の写真があった。
「……えっと、これって?」
色のついた写真というだけでも驚いたけど、その写真は既にぼろぼろになっていたということ、つまり何十年も前のものだと言う事に、常識外の何かを感じた。
「魔法の板よ、その写真の彼が使っていたの」
そう、店長さんは言った。
開けてはならないものだったみたい、だから私はすぐに箱の中に中身を入れて閉じた。
「ご、ごめんなさい!」
私はぺこりと頭を下げ謝る。恋人の形見は危ない、ほんとうに危ない、いくら偶然でも、プライベートなものまで開けちゃった事に罪悪感が湧く。
「……いいのよ、写真はダメだけど、そのプレートと箱は貴方が持っていきなさい。既にそれは目的の終えたもの……彼ね、旅に出たのよ。彼は罪を背負っていて、それを清算するために戦おうと考えたのよね……」
私が謝ると、店長さんは落ち着いた様子で、写真の彼について語り始める。
「私にはもう、何も縛られなくていいなんて言っておいて、彼は自分の罪に縛られ、清算しようとして戦いの旅に出たわ……でも、何年経っても帰ってこない。死んだかもしれない、でも、私はこうして待っているの」
店長さんの語る「彼」、その口ぶりから語られる内容から私はふと、この写真の2人が泥棒か何かだった。
でも堅気になるため、昔のけじめをつけるために「彼」は店長さんを置いて、所属した犯罪組織と戦ったのかしらと、ロマンチックだけどちょっと失礼な想像を張り巡らせる。
「そんな物なのに……いいんですか?」
「ええ、10ドル払えば構わないわ、それが貴方の運命の鍵なら、私はそれを渡すだけ。彼が私と同じ状況に遭っても、きっと、渡していた筈よ」
店長さんはそう言うけど、重たい品物だった。
けど、運命のカギと言う言葉、そしてこの箱を見つけた時、これだと思った。
私は学生鞄から財布を取り出し、10ドルを渡す。
10ドルを受け取ると店長さんは箱から写真を撮り出し、箱を私に渡した。
「貴方の運命に幸運と、ハッピーエンドがあらんことを」
そう、店長さんはこの箱を受け取った私に言った。
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