その4
酒場での談笑を終え、私たちは基地に集まる。
基地は何とか兵員の補充や、怪我人の病院送りに成功し、前よりは雰囲気は明るかった。
「けが人に関しては大丈夫だったみたいね……不幸中の幸い、かしら?」
「ええ、結構な数の人を送れましたから。だから隊長がこの町の病院で寝てられたんですよ?」
廊下を歩きながら、来夏が明るげに話す。
「」
そして私達は会議室で状況を確認する。
フジオカ隊長の他にもリチェット達が雇った傭兵団の団長や幹部なども、多数同席した。
「……我々の情報網によると逆卍団はアリゾナ北部を抜けグレン・キャニオン周辺にて陣地を作成し、居座っているようだな」
フジオカ隊長が真剣な剣幕で語りつつ、地図が張り付けられたノートを片手にテーブルの上に置かれた地図にピンを刺す。
陣地を作成って……遺産を手に入れるのに手間取ってるのかしら。
「なるほど……ユタ州保安官隊との連絡によると、グレン・キャニオンにはアレン一味の飛空艇団も居るという話もありますわ」
リチェットだ、引き抜かれて転職したとは言えそういうコネはきちんと使うのね……
「睨み合い、ですか……」
来夏が言う、パパが持ってた「鍵」と、あの時運んでいた「鍵」が同一のもので、2組で1つになるものなら、両方持ってなければ意味が無い、だから膠着してるのかしら?
「で、私たちの他にどのぐらい部隊を出せるの?」
「ジパング側は我々だけで限界だ、だが、必要な物資の提供等はしたぞ。大盤振る舞いだ大盤振る舞い」
物資の提供ね……できればジパング製蒸機鎧の背部推進機が欲しいけど、私の機体そう言えばどうしたのかしら。
一応修理はされてるでしょうけど、予備パーツちゃんと十分にあればいいわね……
「見ての通り、他の基地からの補充や傭兵を大量に雇いましたわ。戦線への投入可能人員は1個大隊規模……およそ12隻程の飛空艇と、私達を除けば合計50機程度の蒸機鎧が投入できますわ」
十分とは言えないけど、リチェットは結構な数を投入できたみたいね……だとすれば同士討ちを狙う形になるかしら……
「練度は?」
一応聞いておく、歩くのもままならないようなのを投入しても足手まといだから。
「最低でも120mm砲を撃てる程度はあるぜ?」
傭兵団の男の一人、髭面のがっしりとした男が最初に言ってくる。
「ああ俺もだ」
「こっちはきちんと跳躍も可能だ!それを使っての移動もできる精鋭だぜ!……俺と相棒の2人しかいないけど」
「俺も!俺も!」
傭兵たちがこぞって実力をアピールする、本当なら頼もしいわね……
「なるほど、最低でも砲台にはなる、ということね……だとすると……フジオカ隊長達がどれだけ逆卍団の猛攻を凌げるかにかかっているわね、そちらの機体はどういう風になっている?」
「我々の機体は全機が村正工房製の次期量産機、<新々刀ノ村正>となっている。逆卍団の機体は<新刀ノ大阪>と言われる量産機だな……真改工房製の機体だが型落ち品だ、我々の機体の前では敵ではないだろう」
ムラマサって……確かパイロットが発狂して変なカルト組織を作り出し、ジパングの江戸時代政府と闘ったり、他にも反政府テロリストが愛好してた蒸機鎧のブランドよね……まぁ、色々あったのかしら。
「ムラマサとか……縁起でも無い機体ですけど安定性は大丈夫なんですか?」
来夏が心配そうな顔で聞く。
「ああ、村正工房はそもそも顧客を選ばないからある事無い事吹き込まれてたんだ。実際には細かい動きは苦手だが、耐久性と馬力に優れ、整備力と生産性も比較的高い代物を作る工房だよ」
フジオカ隊長は説明する、けど、大典太のような変な能力があるのなら、便利よね……
「なるほどね……それで、大典太みたいに何か能力みたいなものはあるの?」
一応聞いておく、軍事機密かもしれないけど、作戦行動の時に能力も視野に入れたいわね。
「大典太……魔道式の事か、あれは当初は搭載予定だったんだが、基本理念が「誰にでも使え、安価で、強力」というものの為搭載しては居ない。魔道式は使いすぎると機体の馬力が低下するものだからな……おっと、軍事機密を零してしまったか」
フジオカ隊長はそう言いながらもニヤリと笑みを浮かべる。
「なるほどね……もーちょっとゲテモノ染みたものを期待してたわ」
私はちょっとがっくりする。
曰くつきの村正工房の事だから変なものをつけてそうだと思ったけど、ものすごい堅実ね……
「まぁ、ここだけの話だが通常の村正工房に好き勝手に任せると運が悪ければ予算を使いつぶしたとんでもない癖の強いものが出来そうと言う懸念を政府は持っていたので、だいぶ国の横槍が入ったのだよ」
「その結果が魔法のような力が使えない代わりに、性能が高い機体と言うことね」
「最高馬力は25万馬力、最高飛行速度は第一音速に達し、120mm砲の空中発射もある程度の間隔を開ければ問題ないとだけ言っておこう……さて、本題に戻そうか」
にやにやと笑いながらフジオカ隊長は言うけど、スペックだけ聞けば空の飛べるガバメントね……ビルもそのぐらいのハイスペック機に乗っていれば、死ななくてすんだのかしらと考え落ち込む。
「ええ、問題ないわ……とりあえず機体の方は大丈夫そうね。とすると戦術については飛空艇はジパングのフジオカ隊が最前列で、私達は中列、最後尾に雇った飛空艇を配置し、砲撃……って所になるかしら?」
けど、それを周りに悟られないように振舞いつつ、次の話に私は移った。
「問題ないですわね……」
「こちらの部隊もその陣形で構わない、しかし目立った動きは出来ないな……行き先は山岳地帯だったな、なら低空飛行で移動することを提案したいが、どうだろう?」
「低空飛行ね……確かに敵の飛空艇の方が性能が高いのなら、下手に空戦を挑んでも無謀……全機に荒野迷彩効果のあるコートの装着を義務づけての行動になるわね……リチェット、あるわよね?」
「……ええ、運よく残っておりますこと」
迷彩用のコートなんて通常の蒸機鎧が使う場合、あんまり迷彩効果が薄い上に可動部は狭くなるわであまり使えないのよね……即席の迷彩塗装代わりとしてなら使えるけど……
ただ、上空をとった敵が視認しづらくなれば、低空飛行で移動しても敵に補足される可能性は下がるわ。
「だとすれば低空飛行で目的地をこの野営地があった場所として……一先ずはここまで移動し陣地を作成、両軍のどちらかの勝敗が決した瞬間、電撃戦で勝った連中を潰して漁夫の利を得るって所になるわよね……誰か異論は?」
そう、私は陣地を作成する予定の場所にピンを置く、岩壁むき出しの山岳地帯。
深い谷となっている空間だけど、暗い場所だから隠れるのにもってこいの筈。
だけど私は言った後、少し不安な気分を感じる……彼らが探し求めている兵器、それがひょっとして、このアメリカ大陸を滅ぼすものではという懸念が。
だけど、このまま突撃するのは無謀、そうその時私は考える。
傭兵たちを生かすも殺すも、私の采配一つだ。
下手な手は撃てない、そういう可能性になった時、私が手を講じればいい。
指揮官としての責務は、兵員をいかに活かしつつ目的を達成するかだ。
無駄な戦闘は死に繋がる、攻める側なら磐石な状態を保たなくてはいけない。
「問題はありませんが、ユタ州保安官隊にこの位置を陣どらせ、攻撃の際連携し挟撃できるようにしては?彼らも30人規模で投入できますわ」
そうリチェットは言いながら、目的地の北側にピンを刺す。
保安官隊、軍隊規模の武力を持っているとすれば……これで90機ぐらいになるかしら……
「ええ、そこはリチェット中尉、お願いするわ」
そうして、その後補給をどのぐらい中継するかの話等を行った後、会議は終了した。
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