その3
蒸気列車はジャイロ音を鳴らしながら、線路に沿い進む。線路を認識し、それに沿い進むメカニズムは半自動式であり、古代文明の技術を解析した軍によるものらしい。
私はキャリバーに乗り、先頭車両の上に座り込みながら120mm機関砲を構え見張る。
「……」
耳元に風を切る音、飛空艇の甲板で待機した時と同じ音だけど、岩盤がむき出しの風景のせいか妙に印象的に感じる。
私は妙に冷静だった。蒸機鎧に乗ると妙に意識が映え、感覚がいつも研ぎ澄まされる……昔からそうだったけど、軍人として戦う事になってから、余計にそういう所を自覚していく。
周囲360度を確認、飛空艇は問題無くついて来ている、まるで戦争みたいなノリね……
「……来夏、ちょっと上昇して偵察できない?谷が近いわ」
列車は渓谷に入って行く。渓谷の右側に流れる川は綺麗だけど……左右の崖がドンドンと、高くなっていく……少し不安だから、来夏に支持を出した。
「了解しました」
すこし暗くなった時、咄嗟に見上げると来夏はすぐに私たちの列車の前にでて、先行していく。
蒸機鎧の利点は腕と120mm砲にある。
射角が狭い列車の側面砲と違い、人間の腕を模したパーツは非常にいい上下への射角がとれる。
だから、列車を落とすなら崖の上から撃つのが一番、戦術の基本であった。
私は立ち上がる。少し不安定な足場だけど、キャリバーの能力なら難なく動けるわ。
だけど立った状態でも、左右を見ても崖の岩壁がある……工事はしないのかしら?蒸機鎧なら岩壁を削るぐらいは──
「……た、隊長!」
来夏から音声通信が入る……慌てっぷりからして引っかかったみたいね。
「ビンゴみたいね、規模は?」
「も、ものすごい数のイエローボーイ型とレマット型が布陣してます!た、退避しますね……きゃあっ!?」
通信音から揺れる音が聞こえる……来夏とビルは大丈夫なの!?
「来夏!?」返事は帰ってこない、撃墜されたとしても低空飛行、なら、生存の可能性は高いわね……
「こちらキャロル・ホリディ大尉、輸送列車、及びリチェット・アープ臨時少佐に連絡。偵察に出た飛空艇によると前方に敵が大量の布陣、偵察に出た飛空艇が撃墜された模様。列車の停止を提案、本機は友軍飛空艇の救援に向かう許可をどうぞ」
すぐさま音声通信で事務的に伝える、モールス通信なんてしたら解読してる間に手遅れになるわよ……
「こちらリチェット臨時少佐、キャロル大尉の意見に賛同します。輸送列車はただちに停車、キャロル大尉は孤立した偵察隊の救助に向かってください」
リチェットからすぐに返信が来る。
軍人としては判断が速くて助かるわね……ただのボンボンだから偉いだけでない、きちんと判断できるお嬢様なのは助かるわ。
「了解、直ちに救出に向かいます」
私はそう返すとキャリバーで左の崖に向け跳躍し、崖の岩壁に近づく……そしてその岩壁をまた蹴り、逆方向の岩壁を蹴る……パパがやっていた「壁蹴り」という蒸機鎧の高等操作技法により、崖の上まで上がる。
上がったのは右側の崖の上、私はすぐに、全力で地面を蹴り、水平に近く、地上スレスレを滑空するように加速する。
300km、500km、800km……視界に表示された時速計がどんどんと上がっていく。
すぐに視界の先からふらふらと揺れる飛空艇、そしてそれに向かい放っているであろう砲声が聞こえる……来夏の船ね、生きていた事にわたしはほっとする。
恐らくさっきの衝撃で通信機がいかれた……私はそう結論付け、前方に加速するための跳躍でなく、上昇する為の跳躍を行う。
瞬間、キャリバーは低空を高速で飛行した状態になり、すぐに飛空艇とすれ違う……船はきちんと来夏の船で、ビル達は健在だと確認できた。
そして私の目前には、報告通りの無数のイエローボーイ型とレマット型が両側の崖に大量に陣取っているのが見える……レマット型の正式名称は<エピシニズム・オブ・レマット>、西軍が使ってた蒸機鎧の一種で、ピースメーカーの西軍版みたいな鈍色の機体だ。
そして彼ら今、高速で接近する私を認識した所だ……だが、まだ引き金は引いていないし、狙いもつけていない。
最高の好機、そう捉えた私は機関砲の引き金を引き、120mm砲の雨をお見舞いする。
轟音とともに放たれた弾丸が敵機の装甲を抉り抜いて行く。
「な、何だぁ!?」
「アレン!アレン大佐を呼べ!」
砲声に混乱し、拡声器で叫びまわる声が聞こえ、乱射しているうちに高度が下がる……私はすぐに、地面に接した瞬間に地をけり、前方の加速を維持しながら左側に向け跳躍する……
圧倒的火力と機動性に任せた蹂躙にも似た砲撃、それがキャリバーの真骨頂だと私は認識していた。
ばら撒かれた砲弾は混沌を引き起こし、敵陣を潜り抜け突破する……
だが、アレンの姿は見当たらなかった。
敵陣の中に、黄金の蒸機鎧は見当たらなかった……まさか……陽動?
<背部動力のアカシャ粒子が枯渇しました、120mm機関砲を一時停止します>
そう考えているうちに、MAOSから文字が表示され同時に機関砲を模したピクトグラムが表示され、その後一気に真っ赤になって円と斜め横線が上から被さる……
大体文字は読めなくても解るわ、使いすぎて緊急停止になったって事ね……
私は120mm機関砲を背部のウェポンラックに緊急格納させる。
そして体を捻り反転し強引に足を地に叩きつけ地面にめり込ませることで減速する。
<両脚部損傷率8%、フレームにかなりの負担、帰還後再点検をしてください>
今度は文字とともに両足が緑がかった黄色に……今のはちょっと無茶をし過ぎだったわね。
すぐさま私は腰から二挺の120mm砲を取り出し、構える……大分敵陣を通り過ぎてまだ混乱がくるのか、周囲に弾が降ってくる……危ないと感じた私は垂直に跳躍する。
上昇し見下ろした視界の先には、私に接近しようと地を蹴る5機のレマットの編隊があった……
確かに南軍の兵達、すぐに立て直したって事ね……後列にはイエローボーイが120mm長距離砲を持っている、あれがさっきの砲撃の原因かしら?
私は接近する編隊に向け、両手の120mm砲の撃鉄を上げ引き金を引く。放たれた砲弾が1機を破壊し、もう1機は逃れる……
そして砲声が私の位置を気づかせたのか、彼らは減速しようとする……私は見逃さなかった、その隙を。
停止する隙に再度引き金を引き、120mm砲をもう一度叩き込む。
今度は編隊4機中2機を爆破、うち1機が左側に飛ぼうとしたが失敗し、崖底に落ちていく……ケアレスミスね、私もこういうミスをしないようにしないと。
そう考えるうちに段々と高度は下がっていく。
残った1機は私に向け120mm砲を向ける、絶好の機会、私だってこの状況なら撃つってぐらいに、当たれば命中すると言う状況……だけど私はそれよりも先に狙いをつけ、撃鉄を上げ、引き金を引く。
レマットが爆ぜる、編隊のうち最後の1機だ。
さて、残るはイエローボーイ型……しつこく当たらない狙撃砲を撃ってくる機体、どうする?
そう、私が考えた瞬間だった。
<警告!警告!正規型RSの荷電粒子砲の準備を認識!上空100m先からの砲撃です!>
MAOSからけたたましく警告音が鳴り響く……何かやな予感がした私は、すぐに地を蹴り、右側に跳ぶ。
すると次の瞬間であった。
視界を焼き尽くさんという勢いの発光、そして次の瞬間には爆風が私の機体を襲った。
「な、何!?」
爆風はキャリバーを吹き飛ばさんという勢いで体を揺らし、強引に足を地に打ち付け、吹き飛ばない様に猫背にする。
敵の砲撃?そう私は直観で感じ、上を見上げる。
そこには黄金の騎士が居た。
MAOSはすぐに私の視界を拡大し全容を認識させる。
騎士はドラゴンの顔を思わせる胸を開いており、その口からは砲身のようなものが露出しており……そしてすぐに、その口は閉じた。
圧倒的な威圧感、絢爛豪華な外装を持った、黄金の騎士、それを操るは悪逆非道の無頼漢。
アレン・ウォラック。
私の父を殺し、私を一度殺した男であった。
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