その1
翌日私達は支度を整え、駅前に私達は向かう。
リチェットの話によると列車は蒸機鎧による線路の破壊を恐れて、飛空艇と同じジャイロホバー方式になっており、線路はそれのルートを指定する為の道しるべにしかなっていなかった。
「ここですわ」
駅前の空き地に、私達は飛空艇を止め降りる。
飛空艇からは同伴したリチェットが先に降り、私達を先導した。
「車輪の無い輸送列車ね……」
私は苦笑する、確かに蒸機鎧犯罪が横行したからって、車輪じゃなくてジャイロホバー方式にするなんて本末転倒すぎるわよ……
「線路を壊されても企業は残る、企業は対策をしなければいけない。なので低空飛行で力を抑え、その分大量の車両を動かせる形式の蒸気列車に改良したまでですわ」
「東部じゃ普通に車輪式の列車が走ってたわよ……」
「東部に比べ、ここは荒れてますので」
にっこりとリチェットは笑う、東部の話はあまり好きじゃないみたいよね……
「しかしまぁ、まだ来ませんねぇ」
来夏が退屈そうに後ろから声をかける。
「ま、ダイヤ通りなら後30分はかかるんじゃないかしら?」
「うー……ちょっと退屈ですね……」
「そうね……まぁ、暇をかみしめた方が良いと思うわ……今回は逆卍党より、恐ろしい敵よ」
来夏に私は言う。
アレン、彼は逆卍党の機体数機を一瞬で撃破した……あの連射速度、精度、すべてに置いて、一流……技量なら、私よりきっと上の相手ね。
「そうですわね……彼らの練度、規模は共に強大……そしてリーダーの黄金鎧、あれは真作鎧ゴールド・オブ・コレクター……南軍の切り札とも言われた機体です」
「……コレクターですか……うーん……確かにアメリカの保有する真作鎧では最強クラスだけど……そこまで脅威視するほどですか?」
来夏がきょとんとした顔で言う。
情報部所属だけどそういう情報には疎いのか、はたまた、私の戦力を過剰評価してるのか……
「その操縦者が私のパパに決闘で打ち勝ち、私が向けた銃の引き金を引こうとする前に私の心臓を撃ち抜く程の射撃能力を持つ程だとしても?」
「化け物じゃないですかそれ……隊長も一度殺されたって聞きましたけど、そんな早撃ちの使い手なんて」
来夏はとぼけた顔から一転、ドン引きしたのか苦い表情を浮かべる……苦い顔を浮かべたいのはそのバケモノと闘うハメになる私の方よ……
「来夏は危なくなったら逃げるのよ、当たり前だけど……」
「そんな化け物に出会ったら真っ先に戦域を離脱しますよ……」
「頼りない事……まぁ、貴方の飛空艇では足手まといにしかなりませんし、十分ですけれども」
リチェットが嫌味っぽく来夏に言う。でも、足手まといは事実よね……死なれた方が困るわ。
「私は元々諜報とか潜入とかそういうの専門ですから。そもそも直接戦闘は苦手なんですよ」
リチェットの言葉に動じずに来夏は不満げに返す。
「あら?諜報が得意というのなら、アレン一味の──」
「ストップ、リチェットはそうやって煽らない、いい?」
何か変な空気になりそうだと思った私は、言葉を遮るように言う。
「……わかりましたわ」
リチェットはすぐに、私の言葉に納得する。
「ありがとう、今のはリチェットが悪いけど来夏もあんまりリチェットを刺激しないように、いい?」来夏は今の件では悪いところはない、けど、念を押す。
「むー……解ってますよ」
来夏は頬を膨らませ不満げな顔を浮かべる……まぁ、このぐらいなら大丈夫よね。
「はぁ……2人とも仲良くしてよね、お願いだから……」
流石の私も、来夏が陰口を言ったりリチェットが嫌味を言ったり、どっちも付き合い切れないわよ。
「まぁ、若いうちはぶつかり合うもんじゃろう……」
ビルが心配したのか後ろから私に話しかける。
「私も若者よ……」
そう、私はため息をついた。
「……あら、結構年期の入った兵の雰囲気がありますけど」
リチェットは私を褒める。悪意は無いけど……老けて見えるって事よね。
「私は17よ!何度言わせるの……はぁ」
溜息もつきたくなる、みんなして年長者扱いなの?
「ふむ……失礼ですが、私よりも老けて見えてました、申し訳ありません」
「そういうリチェットは何歳なのよ」
見かけだけなら私と同い年よね……でも、警察のお偉いさんなら20代ぐらいかしら?
「16ですが、何か?」
当てが外れた、というか何か変な既視感が……来夏の時と同じパターンよね、これ……
「若いのね……どうしてそんな若さで警官隊を纏めれる程に?」
「所謂天才ですので飛び級をしましたので。才があるのなら才を活かす、貴族として当然の事ですわ」
リチェットは自慢げに話す……飛び級って……来夏とは別パターンで私とは逆の子ねこの子も……
「いい家の出なのね」
「ええ、私の家はフランスの名門貴族であるアープ家ですの」
「へぇ……隊長も結構いい家の出、ですよね?」
「まぁ、パパは軍人だけど、ママは確か……えーと……ああ、ドレーク家だった、フランシス・ドレーク、あれの血筋の家よ」
「無敵艦隊を打ち破りしフランシス・ドレーク……イングランド貴族ですわね……」
「ええ、まぁママは長女じゃなく次女だし、ご先祖様なんてどうでもいいけどね?」
私は笑って言う、ぶっちゃけそんな血筋なんて本当にどうでもいいわ。
「いいなぁ、2人ともお嬢様じゃないですか……はぁ」
来夏が溜息をつく、境遇が境遇なだけに、貴族とかそういうのにコンプレックスが強いのかしら?
「そう?私から見たら来夏は独逸系で私より可愛いと思うけど」
私はちょっとへこむ来夏を褒める、嘘で褒めたらいけないから、本心で褒めてみる。
「そうですか?」
「そうそう、来夏ならきっといい男引っかけれるわよ?私よりも……ええ、私よりも……」
少し暗くなる、話してて私がちょっと暗くなる。
んなロボみたいな体で怖がられ、その上スコアは上がったからそっちの方でもバーサーカーみたいに見られる現実……ひどい、あんまりよ。
「あはは……隊長だって美人ですし大丈夫ですって」
来夏が逆に励ます……来夏の体を私は見る、肉つきのいい太腿、小柄な体形、おかっぱあたまの髪に美少女と言っても差支えのない容姿……ついでに言えば憧れるのは普通の女の子とか……乙女よねぇやっぱり。
「恋愛ですか……私には何がいいのかさっぱりわかりませんわ」
「あと1年すれば解るようになるわよ……はぁ、死ぬ前に彼氏でも作ってれば良かったわ」
私はため息をつく、ロボなだけなら彼氏が出来ただろうけど……今はもう、うん、自分と付き合おうとするのなんて相当な物好きぐらいね。
「戦場での顔さえ知らなきゃ不思議な機械少女ですよ」
「マスコミが全自動で私の戦績プロパガンダに使うじゃない……」
そう、私は頭を抱えた時であった。
ジャイロ音が聞こえてきて、どんどんと近くなる。
列車の音だと、私は感じ、列車の方を見る……黒い、巨大な列車と言うより、移動要塞のようなものが何機かの飛空艇と共に駅に近づいていた。
要塞は駅に突入し、ジャイロの風が私たちの方にまでやって来る。
「きゃっ」
強風に煽られ、来夏が鞄を抑える。
そしてどんどんとジャイロの風は力を弱めていき、とうとう停止する。
「まさに要塞ね……」
「やっと来ましたわね……付いて来なさい、交渉は私がしますわ」
リチェットはそう言って、私の先を歩いて行く。
とうとう、決戦の時が来た、私はアレンへの闘志を胸に秘め、リチェットの後ろに続いた。
こういう女同士のぶっちゃけあい的なガールズトークが好きなのは私ぐらいでいい。
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