その6
作戦会議室は薄暗く、吊るされたカンテラの光が中を照らす。
床には瓦礫が散逸し、カンテラの近くに蛾が何羽も寄ってくる。
掃除されきれず、何とか使える椅子とテーブルを用意し地図をテーブルの上に敷き、当面のプランの会議を私達は開始した。
主な議題は基地の補修と、ジパングからも部隊が来ることについて、彼らに何をやらせるかという話を行う。
「やっぱり彼らに怪我人を運んでもらうのが先決よ、その後に撃退作戦を行うしかないわ」
「ですが彼らは信用に足り得ると?現にジパングの賊が東部の首都を攻めようとしたという話ではありませんこと?」
リチェットは強気に出る、ただしその情報はどこかで歪曲されていたようにも感た。
「逆卍党はジパング国内でも過激派のテロリストよ。それに彼らをどうにかしないと作戦も行えないわ」
「なるほど……ただ、一つ問題がありますわ……」
「問題?」
また厄介な事がありそうね……まぁ、慣れたけど。
「ええ、彼らが基地を先に潰した理由、話しますが宜しいですか?」
「ええ」
私達が来るという情報を受け取って先手を打ったからって訳ではないのね……
「まず貴方達が来るからという先手を打つ意味もあったのでしょうけど……もうひとつは軍用の輸送列車の物資ですわ、その物資を彼らは狙っているらしく、さまざまな妨害を繰り返していますわ」
「列車?そのぐらいなら攻め落とせるんじゃないの?」
「ええ、普通の列車なら……ですが軍用の武装列車で、常に大隊規模の飛空艇が護衛を組んでいるもの……何度かアレンらが襲撃を仕掛け、被害を出しているものの格駅にて人員や物資の補給を行う事で、何とか凌いでいた所ですわ」
「なるほどね……つまり、ここで私達の増援と、列車の補給戦力、どちらも断たれたと」
「そう言う事ですわ……」
リチェットは深刻な顔になる……怪我人の搬送、基地の再建、物資の調達……やることは山積みだというのに……
「はぁ……それで一体彼らは何を狙っているの?軍用列車なんて……軍需物資なら足りてそうなのに」
「……恐らく、今列車で搬送中のカリフォルニアで出土された「鍵」を探しているかと」
「鍵?」
そんな情報は軍部には来なかった、少なくとも私の部隊には。
「ええ、私達保安官の間で解った事なのですが。彼らが襲撃するのは、こぞって真作鎧の出土される遺跡等の遺産を探しているからかと。そして軍用列車に乗せた「鍵」を巡ってなんどか襲撃をかけた事もありましたわ」
「なるほど……保安官情報ね、でも、何で軍部に報告しなかったのよ?」
「行動の傾向や奪われた物からして断定は可能でしたが、明確な根拠はありませんでしたので……」
そう、リチェットは申し訳なさそうな顔を浮かべる。
「……とりあえず、列車がまずいのも解ったわ……後はジパング軍の協力がどう動くかよね……」
彼らの目的はあくまで西部まで逃げた逆卍党の殲滅のはず、だけどこんな状況じゃ基地の稼働もままならない、そんな事は火を見るよりも明らかだ。
「そうだな……奴らは信用できるのかね?」
腰を据えていた、太った中年の高官がようやく口を開く、ものすごい丸い体つきだけど、その眼光はビルと同じような、西部の男の貫録に満ちていた。
「さぁ?ただこの場で兵士達を苦しませて殺すよりは、彼らの飛空艇を使って他の州の病院に送り、その後近くの州から救援を呼んで防備を固める方が宜しいかと」
リチェットはその高官に対し、対等の口調で返す。
「近くの州か……だが西部の州軍は東部の軍備再編の煽りを受け、どこもここほどではないが、ただの町の有力組織でしかないぞ?」
「ええ、だからこそ私達保安官が西部で軍以上の武力を持てる背景になっていますわ」
2人は私に現実を突きつける、西部って思った以上に大変な状況ね……だから軍備を出すのも渋るわけ……治安は悪いし、農耕で作物が育つと思えない荒野だし……
「有力組織ね、軍と保安官以外には何があると言うの?」
「まず先ほどの軍事列車を保有管理している、アメリカ鉄道、あそこは列車強盗対策にかなりの金をかけていて、大量の蒸機鎧乗りを保有していますわ」
「え、軍管理じゃないのですか?」
来夏が驚いた顔になる、そんな事も知らない彼女は本当に情報部なのかと、ちょっと心配になる。
「ええ、南北戦争後は民営化し、1企業と見事成りましたわ……そしてアレン・ウォラック一味……彼らは実質的には英国の尖兵と言っても過言ではないでしょう。アメリカ鉄道以上の規模の兵力を持ち、西部に恐怖と破壊を振りまいておりますわ……ええ、話をするだけで殺意が湧くほどに」
「それは私も解るわ……」
苦虫を噛んだようなリチェットに対し、私も同意を示す。
彼のせいでパパは死に、私もこんな体になったというのに。
「東部育ちが?それも軍のプロパガンダのお嬢様である貴方が解った口を叩けると?」
私の言葉に、リチェットは凄いカチンと来たのか酷い暴言を浴びせる、言葉を間違えたわね……反省しないと。
「ええ、私の父を殺し、こんな機械の体になってしまわれた原因ですもの。これ以上に恨みを抱く理由があるのかしら?」
私はそう、動揺を顔に浮かべず言い放つ、特に不幸自慢何てしたくないけど……ここはきちんと言わないとダメよね?
「……なるほど。ならつい今しがたの無礼で軽率な言動は撤回しましょう、申し訳ありませんでしたわ」
少し暗い顔を浮かべた後、言い訳もせずリチェットは謝罪する。
「いいのよ別に、それよりも建設的な話をしましょう?他の勢力の情報について教えてくれないかしら?」
「そうですわね……後は全体的な鉱石の採掘を担っているロックフェラー財団ですが……ぶっちゃけ彼らは陰謀論だけ先走りした、無力で無害な勢力ですわ」
「ロックフェラーねぇ……」
車の会社だったり、確か蒸気鎧に関してもそれなりにパーツを傘下企業で売っているというのは東部でも有名、それでアメリカを裏で牛耳ってるとか無茶苦茶な話もたまにされてるけど……イマイチ軍に入ってもそういう企業の陰は見えないわね……
「ええ、どのぐらい無害かと言うと……まぁ、軍を動かす闇の軍事資本なんて言葉とは程遠い、ただの採掘企業の元締めですわね。蒸気鎧も今挙げた勢力の中では一番持ってなく、輸送もアメリカ鉄道に委任してますので……まぁ、金だけ出してくれる、気のいい商人ですわね。特に他の企業と比較しても、合法的に買収などは行いますが、詐欺まがいの行動をしてる訳でもない、まぁ、言われたい放題しても特に何もしないあたりがその実態を物語っていますわ」
リチェットはロックフェラーについて良く知ってるわね……
「来夏、それって本当?」
でもとりあえず、来夏に面白そうなので聞いてみる。
「ええ、物資を売ってくれますけど政府を裏で操る、というレベルでは無いですね。大体軍需品よりも、生活必需品の方が多く売れますし……むしろ軍需品の値上げについて国が文句言う形になって、仲が悪いかな?」
「……そんな情報、どこで知りましたの?」
来夏について、リチェットが追及する。
「え、CIA経由ですけどそれが?」
それについて、特に嘘をつかない来夏……そんなホイホイ言っていいのかしら?
「小さなスパイですわね……まぁ、西部の大勢力なんてそのぐらい、後は個人で蒸機鎧を保有する人間はざっと2万程ですわ。尤も、その中で元軍の蒸気鎧乗りは5%以下、殆どが烏合ですけども」
「銃社会ならぬ、蒸機鎧社会ね……」
数は多い……戦争時からの御下がりとしても大体車ぐらいの普及率かしら?
でも、烏合の衆だとするとそれこそ強いのは一握り……博士が言ったように、そのレベルならキャリバー1機で100機撃破も可能よね……
「とりあえず、私達としてはその個人で蒸機鎧を保有する元軍属の蒸気鎧乗りを集めれるようにしてほしいわね……」
戦力の調達が芳しくないし、そのための予算は貰っている……なら、捨て駒だろうと投入するしかないわね。
「荒くれ者が多いですわよ」
「なら、防衛は傭兵企業とかを探して雇えない?」
「……それも荒くれ者が多いですわ、けど……背に腹は替えられないですわね」
リチェットも納得し、戦力の調達はその後の会議で西部でも有名なビルが交渉役につく事になる。
また、医療に関してもジパングからの増援に頼りつつ、それまでは基地の飛空艇と私達の飛空艇で怪我人を他の町に送る事になった。
そして列車の防衛、それには私とビル、そしてリチェット他数名の蒸機鎧乗りが増援として、次の州まで送り届ける事に決定する。
始めてきた西部で私の心は不安だけど……今回の列車防衛、これで奴……アレンとの決着をつけられる。
勝てるかどうかはまだ不安だけど……今回は仲間が居る、だからやれる、そう私は私自信に言い聞かせた。
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