その1
逆卍党とのドンパチ騒ぎは、何とか陸軍の勝利で終わった。
ジパングの方でもどうにも軍事クーデターを起こした逆卍党の総帥は逮捕され、投獄され裁判にかけられるらしい。
彼らは大部分の戦力をジパングでも遠征先のアメリカでも失ったのだ。
そして今回戦力の過小評価を行った海軍はこの件で何名か責任を取り辞職、スパイ容疑に何名かかけられ、収容所送りになったわね……
私は……とりあえず戦績はきちんと司令達に伝えたわ、大典太の撃破についても。
「……君が事実を言ったのは解る、だが、事実をありのまま伝えてもきっと誇張と言われるだろう」
司令の言葉に、私もつくづくそう思う、と言うかこれで合計スコア30機オーバーした気がするわ。
「……私が強いんじゃありません、キャリバーが強いのです」
「……しかしジェシカ大尉の部下の蒸機鎧乗り曰く、戦闘技量も鬼気迫るものだと聞いたが?」
「操縦システムが優秀ですから」
きっぱりと私は言う、私は蒸機鎧の乗り方、銃の使い方、戦い方を全てパパから仕込まれたけど、それでもきっと、専門の人間には劣るという自負はあった。
「ふぅむ……まぁ構わん、この戦績で君は大尉に昇格だ、スピード昇進おめでとう」
新しい階級章を私は受け取る。
戦場に出るたび階級が上がる事に、何か申し訳なくなるわね……
「それで、人員の増員は?」
でも、これで海軍も居ない、私の隊に人材は揃うだろう。
「当面の予定はないな」
そう思った私の希望を、司令は見事に打ち砕く。
「……」
悲しさのあまり、言葉も出なくなる。
「私が説明しよう、あれでもジェシカ大尉の部隊はかなり練度が高くてな、それでも君と行動を共にして、半数以上蒸機鎧乗りが潰れたのだ。君の戦果は凄い、仲間を守ろうとするのは非常に合衆国軍人の鑑とも言える、だが……正直に言おう、君の実力に見合うぐらいの仲間は、ビル以外にそう見つからないのだよ」
「えーと、それって……」
「要するに、キャリバーかガバメントが大量配備するまで耐えてくれと言う事だ、済まない」
結局何も変わらない、その現実と、中将の申し訳なさそうな顔に私は涙が出てくる。
「……解りました」
涙を眼に浮かべながら、私は司令室から退出した。
私はその後、余暇を利用して、アムとリンが入院する病院にお見舞いに行く。
彼女とは色々と話をしたい、積もる話もあったからだ。
病室に行くと、アムとリンは元気にラジオを聞いていた。
「あれ、キャロル軍の仕事終わったの?」
リンだ。
「ええ、大丈夫?」
元気そうな彼女に、私も笑顔を取り戻す。
「うん、大丈夫大丈夫、収容された時、ジント君が守ってくれたからね」
ジント……そう言えば、彼があの後どうなったかも、私はまだ聞いてなかったわね。
「うんうん、でもキャロルの方が大変だったみたいじゃん……というかこの戦果本当なの?」
アムは私に新聞を見せる、新聞には私についての話題も結構乗っていて、この前の工場建設予定地襲撃の時の戦果まで書かれていた。
「本当だけど……嘘くさいでしょ?」
苦笑いしながら私は言う。
「いや、キャロルならこのぐらいやりそうじゃん、スチームレーサーGPで優勝しまくってたキャロルだしさ」
懐かしい言葉だった、スチームレーサーGP……蒸機鎧を使ってのレース、障害物は多く、ピースメーカー型であれば時速350kmは単純に出せるため、コースは山岳地帯を主に使い、その距離はおよそ120km、レッグペダルを踏みしめ、地を蹴る鋼の鎧、ぶつかってくる相手も居る、崖の間を走り、マーカーを辿る長距離レース。
私は去年、若干16でチャンピオンになった……パパに言わせればこのぐらい娘なら当然、らしいけど……その経験がキャリバーの操作技術に繋がったのかは解らないわね。
通常の操作も肉体の動きをトレースするようにフットペダル等は制御されてるし、肉体同然に扱えてこそ蒸機鎧乗り、とは理論では言うけど……大体あってるけど、昔パパのピースメーカーの120mm砲をパパに使わせてもらった時は、照準のつけ方が面倒だったわね……
「優勝は去年だけよ」
「でもTV実況クラスのみんな見てたけどさ、ものすごかったじゃん、追い抜きと動きがそう……えっと……」
「ニンジャよニンジャ、独逸とジパングの諜報員の事」
言葉につまるリンに、アムがフォローを入れる。
「ニンジャ、ね……」
ニンジャならむしろ独逸系の諜報員の来夏の方が近いわよね……
「うん、要するにすっごい上手いからね、キャロルって乗り物関連、武術だって万能だし……完璧超人じゃん?胸以外は」
「胸以外は余計よ」
私はまた苦笑する、確かにこんな体になっても胸は無い、というか成長する可能性が無いから、多分胸はこのまま……まぁ、別に齢を取れば胸なんて垂れるものだし、あっても寄ってくる男なんて、下品な男ぐらいと私は自分に言い聞かせる。
「あの、キャロルは学校にはもう、来ないよね……」
アムが寂しそうな顔を浮かべる、確かに今の状況、私の体や地位を考えれば除隊とかはもうできる雰囲気じゃない、それに、私はまだ、父を殺したアレンを捕まえてはいない……
学校には戻れないし、戻る気も無かった。
「ええ……飛び級して軍人になったからね……」
「うーん……じゃ、休みになったら遊びに来れる?」
「うん、それなら仕事が無ければね……まぁ、部隊が部隊だからアレだけど」
私は笑顔で言う、2人が生きていたのは本当にうれしかった、けど、私にはまだ、やる事がある……部隊の運営にしても、父の仇にしても、色々と山積みだと、心の中で思った
再開再開、楽しみにしてた人居れば幸いです