その4
次の日の昼は約束どおり、マッドナー博士のラボに再度私は出向いた。
ラボは軍の基地の中にあり、基地の中は様々な兵隊さんでごった返している。
「失礼します」
扉の前でノックの後、扉を開けそう言って私はラボの中に入った。
ラボには博士と、もう一人……いかにもって感じの、見るからに偉そうな格好をした、細身の軍人さんが居た。
確かあの人は……パパの知り合いでこの基地の司令をやってるバーナード・マッシュマンって人だったわね……いかつい顔がマッシュルーム頭のせいで台無しだけど、自覚あるのかしら?
「おっと、もう来たか……おはよう、機械の体の気分はどうだ?」
「おはよう博士、今のところ不調な所はないです……所で、マッシュマンさんも一緒に?」
「うむ、今日は君の身体テストをしてもらうのでな」
「えーと……危ないことはしませんよね?」
軍が絡んだ身体テスト、と聞いて少し危なそうな命にかかわるようなものを私はちょっと考えてしまう。
そんな事は転地がひっくり返ってもないのは分かるけど、こうも生身の体を思い切り良く廃棄処分されて機械の体に移されたら、ちょっとそういう軍の人体実験がテーマの物語とかを連想してしまうのは仕方がないわよね?
「ハハハ、なぁに、軍の入隊用の身体テストと同じ事をしてもらうだけだ」
豪快に司令は笑って言う、でもやっぱりそのキノコ頭とやせ細った顔はなんかこう……凄くギャップを感じるわね。
「さてと、そっちのバスケットに測定用の服が入っている。更衣室でドレスから着替えたらすぐに室内訓練場にて測定を開始する」
マッドナー博士は私と司令のやり取りを流し、冷淡に私に指示をした……
クールな男に女は惹かれるって言うけど、ちょっとこの人の相手をしているといろいろと疑問を覚えてくるわね……
更衣室で私は着替え、室内訓練場に向かいすぐに測定を行った。
何週まで疲れずに走れるかの測定や、走り幅跳び、ダンベルの持ち上げ、どれも体が機械で出来てしまったのか、昔の頃よりもいい成績は出せた。
そして今私はリボルバー銃を持ち射撃技量を測定していた。
上がったターゲットを撃つ、それだけの単純だけど、技量が必要とされる行為。
淡々と私は疲れを感じずに撃ち抜き、とうとう最後の1つも撃ち終え、測定が終了した。
「ふぅ……どうでした?」
私はデータを見てる司令と博士に近づき言う。
「ああ、素晴らしい!実にすばらしい結果だよキャロル君!」
司令はつくづく嬉しそうな顔で私に言う。
多分軍事転用を考えているのだろうけど、この技術を軍事転用するにしてもMAOSが必要じゃないかしら……そうちょっと私は不安に思った。
「これなら手足が破損した兵士でも、この研究の応用で義肢を作ればすぐに戦線に復帰が可能と解りましたよね?」
博士の言葉で、私のようなロボット人間じゃなくて、要するに義手とかにこの技術を使うのだと理解する。
確かにそれならMAOSでなくてパンチカードでも大丈夫よね……
「戦線に復帰?負傷兵の心の傷までは癒えんさ。だが社会復帰の手助けには必ずしもなるだろう」
そう司令は言う。負傷兵の心の傷って軍内部でも懐疑的ってパパが言ってたけど、寝てる間に見方が変わったのかしら?
そう言い終えた後、司令は博士でなく、私の方に顔を向ける。
「さてと……では、キャロル君、君に少し提案したい事がある……いいかね?落ち着いて聞いてくれたまえ」
司令の表情が急に、温和な表情から真剣な顔に移る。
「ええ、何でしょうか?」
私は返す、何の話かしら?
「軍に入らないかね?」
司令の提案に、私は驚く。
まだ高校生の私に軍の一員になれって……ちょっと2年早くない?
あ、でもそう言えば今のテストって……
「……さっきのテスト、入隊テストと同じカリキュラムでしたよね?」
まさかと思い、司令に問いかける。
「うむ、それらで君は成人男性のそれの2倍程度の好成績を収めた……だが、君にただの兵士として入隊してくれとは言わない……来たまえ、司令室で詳しい資料は渡そう」
「資料、ねぇ……解りました、概要だけでも確認させてもらいます」
一体どういう契約条件なのか、私は考える。
でも、ただの兵士じゃないというと宣伝部隊の人間なのかなとその時の私は結論付け、キノコ頭の司令の後をついていった。
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