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幕間

油くさい鉄のプレートが何重にも張られ、エンジンの音が操舵室にもうるさく響き渡る飛空艇の中、アレンは操舵室の司令席に座り、摩天楼が輝く夜のニューヨークを見下ろしていた。


「アレン様、やっと動き出すのですね」

アレンの近くに居た、茶色い髪のウェーブヘアーのラテン系の青年が声をかける。

名前はブラッキー、彼は傭兵として淡々と過ごすアレンに、この計画を持ち込んだ男だ。

今はアレン達の副官を務める片腕でもある。

煙草を一服、アレンは吸う。


「ああ、ドク・ホリディ……これで陸軍のエースは死んだ、南北戦争も終わりを継げ、軍縮傾向に向かっている……すべては順調だ、すべては」

自分に言い聞かせるように、アレンは言った。

飛空艇はどんどんと下降し、あるビルの屋上にたどり着く。


「団長、たどり着きました!」

そう、連絡管がアレンに告げる。

アレンは席のテーブルにあった、艦内連絡用の通信機を手に取り、スイッチを押し続ける。

「……準備は出来ているな?これから俺達はクソッタレな北軍と全面的な敵対行動を取り、南北戦争が終わっていないとこのニューヨーク市民、いやアメリカ全土に告げる!そのためにこのラジオ塔を乗っ取り、宣言を盛大に行おうではないか!」

そう、アレンは叫ぶ。

その声は熱狂的で、どこか退路を断たれた男の雰囲気を持っていた。

だがその雰囲気は兵の熱狂に消され、そして飛空艇から梯子が降ろされ、ドンドンとガンマンたちがビルの屋上にたどり着く。


「や、動きましたね」

ブラッキーは楽しそうに、自分が掛けた眼鏡の位置を直しながら言う。

その眼鏡の位置を直す動作はブラッキーの癖のようなものだと、アレンは見抜いていた。

「そうだな、これからが戦いになる」

苦い表情を浮かべアレンは言った。

「団長、制圧完了しました」

何分か経過すると、通信兵から連絡が来る。

「解った、すぐに降りる……準備しろ、行くぞ」

連絡に対し返答し、アレンは席を立ち、頭にかけたテンガロンハットを被りなおす。

そして飛空艇の降下口にまで向かい、梯子を伝い降りていく。

屋上は静かで、パトカーのサイレンの音すら鳴らない。


「ブラッキー、俺のスポンサー様は警察も買収できるのか?」

アレンはブラッキーに問いかける。

この状況なら、パトカーや蒸気鎧が出動しうるさいベルを鳴らしている筈だ。


「いいえ、ですが彼らは既に30分前、隣の区画で発生した蒸機鎧によるテロの鎮圧でつきっきりかと」

ブラッキーはにっこりと笑いながら言った。

イングランド系の美青年のこの笑みは何時見ても、ぞっとするものをアレンは感じた。


「そうか、ならいい、すぐに終えるぞ」ア

レンはそう言い放った後、屋上から建物の中を進む。

「こっちです」

部下の一人が先導し、すぐに目的地にたどり着く。

そこはラジオ曲のスタジオだった。

リスナーの死体が機材に寝被さっており、アレンが周囲を見回すとスタッフの女性がガタガタと震えていた。


「ったく……無駄な殺しはすんじゃねぇよ」

アレンは呆れながら、脳漿をぶちまけたリスナーの死体を強引にどかし席に座る。

近接戦闘用のショットガンを使ったからか、口から上は吹き飛んでおり、どかすとぼとりと彼が人であるために必要だったものが零れ落ちる。

「おいこれ、もう話しても大丈夫なのか?」

「はいっ!大丈夫です!」

少年と言ってもいい容姿の若い部下が答える。

年齢は16歳ぐらい、父が南軍で、アレンを慕っていたため親子でアレンの所属する傭兵団に入ったのだ。

「そうか、じゃあ始めるぞ」

アレンは少年を見て複雑そうな顔を浮かべる。

つい数日前殺した、あの少女を思い出したからか、それとも子供だというのにこんな無残な惨状をみて、顔色一つ変えてない、自分と同じ人殺しにしてしまった罪悪感なのかは解らない。


アレンは深呼吸し、曇り顔を拭い去りにっとした、ぎらついた笑顔を浮かべる。


「あーあー、聞こえているかい北部合衆国全土?俺だ、南軍の<神の眼>と呼ばれたアレン=ウォラック中佐だ、今日はお前らに最高のニュースを届けてやりに来たのさ!」


「だから本日のつまらないニュースは中止!リスナー?ああ奴さんなら死んだよ頭ぶちまけてな!ハハハ俺の隣でくたばってるぜ?」


「……OK、本題にとっとと移ろう、南軍の野郎どもへの話だ、この3年どうやって暮らした?北部の金持ち相手にへらへら笑って頭下げて奴隷暮らしか?それとも嫁に逃げられ酒浸りか?どっちにせよクソッタレな人生を送ってるだろうな?」


「だから俺達は伝えに来た、そうだ、南北戦争は終わってねぇ!北部は戦争の激化により戦力を失った上大量の国費を使いすぎ更に軍備縮小を行い、首都の防備が限界となり、南西部は既に型遅れの蒸機鎧と飛空艇しか持たねぇ武装警察しかいねぇ!」


「そうさ……南軍の野郎ども!南北戦争は終わっちゃいねぇんだよ!お前等だって蒸機鎧はあるだろう?飛空艇や弾薬は俺達が用意する!俺は先にニューメキシコで待つ、てめぇらも来い!」


「北部の腰抜けどもは戦力を出し渋るさ!そうすりゃ俺らの天下だ!いい飯食っていい女を抱き、北部の奴らを、あのいけ好かないクソどもを徹底的にぶちのめせるぜ!」

アレンはマイクを掴み、熱狂的に演説を行う。

一心不乱で熱狂的、そしてどこか魅惑的な情景を乗せた無茶苦茶な演説、だが周囲に居た部下はその光景に感服し、拍手を送った。


「団長!流石です!」

少年の部下は涙を流していた。


「ああ、これで死んだ仲間も浮かばれます!南軍の意地、魅せてやりましょうよ!」

もう一人の、細見の部下も涙を流し、拍手を行っていた。


「……うれし涙はとっておきな、とっとと帰らねぇとここにも武装警察がやってくるぜ」

アレンは冷静に席を立ち、部屋から去る。


そうしてアメリカ全土はニューヨーク市内に発生した蒸機鎧を用いた大規模テロ及び、それを陽動として使ったラジオ局の電波ジャック事件に震撼した。


これによりNY市内は対テロを恐れ警備を強化、便乗犯による蒸機鎧犯罪が横行した事により警察機関では手に終えなくなり、結果軍部が治安維持活動を行うようになり、軍縮から軍拡へと移り始める。


だが皮肉にも、早急な首都圏防衛体制の確立の為に大量の戦力をニューヨークに集中させる事となり、アレンのもくろみ通り、西部の州は事実上の無法地帯と化した州も出てくることとなる。


そして南軍の残党も、その激動の中に巻き込まれるある者は北部への復讐、ある者は周囲の迫害により、止むを得ず、また、北軍の人間だが仕事が無いからアレンに取り入ろうと考えた者も西部へと向かった。


こうして合衆国はまさに混乱のまっただ中に落とされたのである。


1章これで終了です、呼んでくれた皆様ありがとうごさいました。

感想、誤字脱字の報告お待ちしております。

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