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その9

車のエンジンのかかる音と、アレンさんの蒸機鎧の音で私は起き上がった。


「何!?」

そう私は言いながら窓を見る。

窓からはパパの蒸機鎧を積んだ大型車が家から出発しているその時であり、アレンさんの蒸機鎧も背部の機構を使い、空を飛び始めていた。


「え……」

愕然とする、パパは私に黙って、どこかに行こうとしていたのだ、それも命を賭ける程の事に。


止めないと、私はそう思い、すぐに服を私服に着替え、そしてママの部屋に入り、寝ているママの鞄からママのバイクの鍵を取り出す。


私のバイクは学校に置きっぱなしだったからだ。

ママのバイクに乗り、アレンさんの蒸気鎧の機構により、噴出される炎の後を追う。

パパの車はわからないけど、アレンさんの鎧ならわかったからだ。


「何を考えているの……」

バイクを動かすけど、どんどんと道の先はニューヨークの郊外へと向かって行った。


だけどアレンさんの蒸機鎧の方がスピードは上で、すぐに見失う。

だけど空を飛んでいたアレンさんの蒸気鎧なら恐らくまっすぐ直進している。

だとすればバイクで彼が行っただろう道に進んで行けば何とかなると、そう考え、私はバイクを動かし続けた。


3時間もバイクに乗り続け、腕は汗でびっしょりになっていた。


雨も降ってきて、体中が冷えてくる、だけど、それでも私は追い続けた。


段々と距離感覚がなくなり、どこに向かっているのか解らなくなった時。


蒸機鎧の砲弾が放たれる音がした。


近かった。


私はすぐに、その方向へとバイクを全力で向けた。


そこはまだ人が住んでない未開拓の区画だった。

迷路のような谷になっており入り組んだ地形の中、雷光が光る。


そしてそこで私は見た。


白の蒸機鎧と、黄金の蒸機鎧が激戦を繰り広げる姿を。


パパと、アレンの機体だった。


戦闘は熾烈を極めていた。互いに放つ砲弾は全て機体を逸れ、互いの機体は跳躍しあい、100mはあるだろう谷の壁面を蹴りその力で更に跳躍上昇しあい、互いに必殺の砲弾を放ちあい、機体を破壊せんとする。


それも自分の肉体でなく、パイロットはコックピットにある操作のための2本のグラブスティックと2つのレッグペダルによる動作の制約を受けながら、機体の限界を超えた機動を行い戦う光景だった。


「何なの……これ……」

パパとアレンが戦ってる事より、私はこのアメリカ大陸で最強クラスの蒸機鎧乗り2人の戦いに釘付けとなっていた。

互いに高速で動くためか砲弾は当たらず、周囲の岩壁を傷つけるだけで、とうとうアレンの方が先に弾切れを起こす。

アレンは背中に取り付けてあった分厚い剣を取り出し、そして弾切れを誘うようかのように跳躍し、背部の機構を使い空中を飛び舞う。


谷は広いけど、蒸機鎧のサイズで考えれば狭いサイズだった。


パパもそれを察すると、動きを止め、大砲の持っていない方の手で腰のナイフを出し、様子を伺う。

下手な挑発に乗らず、パパは突っ込んできたところをやっつけるつもりだと私はすぐに解った。


アレンもそれに気づいたのか弾切れ狙いの戦法は無理だと悟るや否や、壁や地面を蹴り崖の中を縦横無尽に動き翻弄する。


背部の機構でそれらの機動を強化して、私の眼には捉えきれない動きでパパに迫ってくる──


「パパ!」

私はパパの命の危険を悟った、あの攻撃を受け切るのは無理だと思い、咄嗟に、大声で叫んだ。


大砲の音が鳴る、今日で何度目に聞いた音か解らなかった。


私はとっさに目をつむり、バイクから降りて岩陰に隠れ、そして震える。

蒸機鎧の駆動音だけが谷に鳴り響き、それが不安を掻きたてる。


パパは今ので死んじゃったのかと、魅惑的な蒸機鎧の武闘が終わり、殺し合いがあったという現実と、父の死という不安感が私の中でどんどんと膨れ上がる。


そして次の瞬間、また、ううん、今度は鋼と鋼がぶつかり合う音が始まったの!


パパはさっきの攻撃でやられてない!そう私は気づくと岩陰からこっそりと顔を出した。

そこにはまるで西洋の騎士の逸話のような決闘の風景があった、巨大な剣とナイフがぶつかり合う光景。

パパの蒸機鎧は大砲を持っていた方の腕、アレンの蒸機鎧は剣を持っていない方の腕を互いに吹き飛ばされてもなお、戦っていた。


何がここまで友人だと認め合った2人を駆り立てるのかは解らなかった。

けど、2人とも持てる限りの全力を出しての戦いだというのは、その場に居合わせた私でもわかった。


互いの刃がぶつかり合い、パパの蒸機鎧はアレンの剣を受け止め、そしてその隙に右足でハイキックを放つ。

アレンの機体が吹き飛び、岩壁に押し付けられる、そこに追い打ちで、パパはナイフを今度は剣を持っている方の腕に向け、突き立てようとした──




普通ならここで、アレンのコックピットは強い振動で揺れ、そして立ち直るのに時間はかかる、




どう見ても、パパの勝利は目に見えていた。




けど、それは「普通なら」の場合であって。




今の私には、とうてい受け入れられない現実であった。





パパがナイフを突き立てようとするよりも先に、アレンの黄金の機体の剣が、パパの機体の胸部を貫いた。




そう、それはコックピットを破壊した、父は死んだと言う事だった。




黄金の蒸機鎧は、白い蒸機鎧に突き刺した剣を引き抜く。




紅い血が、ついていた。




「あ……え……?」

無敵だと思ってた、パパが死んだ。


死因はアレン、昔の友達との決闘、でも、そうなったのはたぶん、私のせい。


私はバイクの蒸気エンジンをかけ、白の蒸機鎧の居る場所まで近づく。

そこにはアレンが、煙草を吸って待っていた。

「……約束通りだ、恨むなよ」

アレンはカードのようなものを取り出し、眺めていた。


<ユーザー03の心理的ショックを計測……精神安定エフェクトの起動を提案>

「……何で……何でパパを殺したのよ!」

訳の分からない文字が視界に入るけど、それに私は気にすることなく叫んだ、声にならないぐらい叫んだ。

<ユーザー03、精神安定エフェクトの起動を棄却と判断>


「……賭けさ、こいつのな」

そう、アレンは手に持ってたカードのようなものを見る。

それは私の視界に表示される文字と、似た文字で書かれていた。


「そんなものの為に……?」

だけど私にはくだらないものにしか見えない、少なくとも、パパが命をかけるのにふさわしいものではなかった。

「くだらない、か、お子様にはわかんねぇだろうな……少なくともドクが命を賭けた価値はあるものだってのに……」


さっぱりわからなかった、私にとって、パパはかけがえのない人だった。

それをこんなものの為に、パパをまた殺し合いに駆り出させた彼が許せなかった。


アレン隙だらけだった。


私は、パパにもらった銃を構える。


「……決闘気分か、やめとけ、今のお前じゃ俺にゃ勝てねぇよ」

アレンはそう、私に言う。

でも、私は引き金を引くだけ、対してアレンは腰のホルスターに銃を仕舞っている状態。


つまり、私が引き金を引けば、何時でも殺せる状況にあった。


銃を使ったことは射撃場で何回かある、でも、実際に使うのは今日が初めてだった。

だというのに手に震えは無い、今ならやれる、そういう自信と、パパの仇をとりたいという欲求……

いいえ、自分のせいで、彼を家に招いたせいでこんな事になったという罪悪感を拭いたくなる贖罪の渇望から、引き金を引こうとした。


銃声が鳴る。


瞬間、胸に想像を絶する激痛が襲い、そしてその衝撃で体が倒れる。


「あ……ご……が……」

息が出来ない、激痛、助けて、そう叫びたい、このまま死ぬの?死ぬのは嫌、誰か、誰か、誰か助けて!私は叫ぼうとするけど、何もできない。

私が引き金を引く間に、アレンは銃を抜いて引き金を引いた。

それが結果、それが現実、ガンマン相手に素人が勝てるわけがなかった。


でも、パパを殺すのに関わってしまったくやしさと、そしてやるせなさと、死にたくないと言う意識が私の全てだった。


力が欲しい、力が欲しい。


死にたくない、死にたくない。


激痛を通り越し感覚がマヒしていく。


そんな中アレンは何も言わず、歩き去る。


銃を撃とうにも力が入らず、そして、くやしさの中私の意識は闇の中へ消えて行った。




<対象の心臓が崩壊、脳死を避けるために仮死化エフェクトを起動>




<心臓部の修復が完了するまで肉体の状態を仮死状態に固定します>




<なお、仮死状態の間のストレス軽減のため、余白時間はユーザー02の許可領域内の記録追体験プログラムを再生します>

感想、誤字脱字の報告お待ちしております。

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