第一話 「君との出会い」
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—— 第一章 中学生編 ——
1話 君との出会い
「今日から中学生か……。」
朝、目覚まし時計が鳴る。
隼人はゆっくりと起き上がり、新しく買ってもらった制服に袖を通した。鏡を見ると、まだ制服に着られているような自分が映っている。
「ちゃんと友達できるかな……。」
小さくつぶやいたその言葉は、誰にも聞こえなかった。
朝食を食べ終えると、母に「行ってきます」と声をかけて家を出る。
家から学校までは歩いて二十分ほど。
道には同じ制服を着た生徒たちが何人も歩いていた。
「あ、亮太!」
「同じクラスになれるといいね!」
そんな会話があちこちから聞こえてくる。
隼人は誰にも話しかけられず、一人で校門へ向かった。
桜の花びらが風に舞う中、校門には『入学式』と書かれた大きな看板が立っている。
「ここで三年間過ごすんだ……。」
少しだけ胸が高鳴った。
しかし、その期待は教室へ入った瞬間に消えていく。
教室では、すでにあちこちで話し声が聞こえていた。
「同じ小学校だったよね!」
「久しぶり!」
知り合い同士で集まり、笑い合っている。
隼人は知らない人ばかりだった。
空いている席に座り、静かに前を向く。
(話しかけたほうがいいのかな……。)
そう思って隣の席の男子を見る。
でも、声が出ない。
『変なやつって思われたらどうしよう。』
その考えが頭をよぎるたびに、勇気はどこかへ消えてしまった。
結局、先生が来るまで誰とも話せなかった。
「おはようございます。」
担任の先生が教室へ入り、出席を取る。
一人ずつ名前を呼ばれ、隼人も返事をする。
その後、体育館へ移動し、入学式が始まった。
校長先生の話。
来賓のあいさつ。
新入生代表の言葉。
長い式が終わるころには、足が少し疲れていた。
教室へ戻ると、先生からたくさんの教科書やプリントが配られる。
「これは提出期限が来週です。」
「こちらは保護者の方に確認してもらってください。」
机の上はあっという間に紙でいっぱいになった。
「今日はこれで終わりです。気をつけて帰ってください。」
その一言で教室は一気ににぎやかになる。
「じゃあね!」
「また明日!」
楽しそうに話しながら帰っていくクラスメイトたち。
隼人は一人で荷物をカバンにしまい、静かに教室を出た。
帰り道も一人。
春の暖かい風が吹いているのに、どこか心は晴れなかった。
(友達、一人もできなかったな……。)
家に帰ると、母が「学校どうだった?」と聞いてきた。
「普通。」
そう答えるだけだった。
本当は少し寂しかった。
でも、それを言葉にすることはできなかった。
自分の部屋へ行き、制服を着替える。
机の上には、昨日まで読んでいた漫画が置いてある。
ページを開くと、主人公が仲間と笑い合っていた。
「いいな……。」
そんなことを思いながら読み進める。
その後は好きなアニメを見て、気づけば夕方になっていた。
その時間だけは、学校のことを忘れられた。
夜。
配られたプリントを親と確認し、提出書類に名前を書く。
「部活動紹介は明日か。」
その文字を見つめながら、小さくため息をついた。
部活に興味はない。友達もまだいない。
明日も、きっと今日と同じような一日になる。昔からそうだった。
隼人はそう思いながら、静かに電気を消した。
翌日。
体育館では部活動紹介が始まった。
野球部、サッカー部、バスケ部、吹奏楽部……。
どの部活も先輩たちが熱心にアピールしている。
(部活か……。)
隼人は正直、入る気はなかった。
だが、この学校では全員が部活動に所属しなければならない。
「どうせなら楽そうな部活でいいかな……。」
そんなことを考えていた。
そのときだった。
「次は、ハンドボール部です!」
聞いたことはある。
でも、どんな競技なのかはほとんど知らない。
先輩が助走をつけ、思い切り腕を振る。
バァンッ!!
ボールは一直線にゴールへ突き刺さった。
体育館中に響く衝撃音。
「おぉ……。」
思わず声が漏れた。
今まで見たどの競技よりも、そのシュートはかっこよく見えた。
「ちょっと、やってみたいかも。」
その一言が、隼人の人生を大きく変えることになるとは、このときはまだ知らなかった。
数日後。
隼人はハンドボール部の仮入部へ向かった。
体育館には一年生が何人か集まっていた。
「あ、同じクラスだよね?」
話しかけてきたのは、佐神真也だった。
「う、うん。」
「俺、佐神真也。よろしく!」
人と話すのが苦手な隼人だったが、真也は自然と距離を縮めてきた。
「よろしく。」
それだけだった。
でも、入学して初めて少し安心できた瞬間だった。
周りを見ると、他にも一年生がいた。
泉修哉。
斎藤佑樹。
澤田遼。経験者らしい。
小林浩人。
山田蒼汰。
(みんな上手そうだな……。)
期待よりも、不安の方が大きかった。
「じゃあ、一人ずつシュート打ってみよう!」
先輩に言われ、隼人はボールを受け取る。
初めて触るハンドボール。
意外と小さい。
助走をつけ、思い切り腕を振った。
バンッ!!
ボールは勢いよくゴールネットに突き刺さる。
「おぉ!」
先輩たちが少し驚いた。
「一年でそのシュート力?すごいじゃん!」
「肩強いな!」
初めて褒められた。
少しだけうれしかった。
(もっと打ってみたい。)
そう思えた。
しかし、その夜。
布団に入ると、昔の記憶がよみがえる。
小学生の頃。サッカーを始めた。
「隼人は才能ある。」
そう言われ続けた。
でも試合では結果を出せなかった。
「期待外れ。」
「もっとできると思ったのに。」
そんな言葉ばかりが耳に残っている。
結局、サッカーは辞めた。
(また同じことになるんじゃないか。)
(最初だけ期待されて、最後は幻滅される。)
ハンドボールも同じかもしれない。
そう思うと、入部届を書く手が止まった。
翌日。
真也が隼人に声をかける。
「まだ迷ってる?」
「……うん。」
隼人は正直に話した。
サッカーでのこと。
期待されるのが怖いこと。
また失敗するかもしれないこと。
真也は最後まで黙って聞いていた。
そして笑って言った。
「じゃあさ、今回は最後までやってみようぜ。」
「え?」
「結果なんてどうでもいい。途中で諦めたら、また同じ後悔をするだけじゃん。」
「……。」
「俺、一人じゃ心細いんだよ。一緒に三年間続けよう。」
その言葉は、不思議なくらい心に残った。
(三年間……。)
(今度こそ、逃げずにやってみようかな。)
放課後。
顧問の先生が一年生を集めた。
「ハンドボールは楽なスポーツじゃない。」
「走るし、きついし、試合では何度も失敗する。」
先生は一人ひとりの顔を見ながら続ける。
「でも、本気で続けた先には、それ以上の景色がある。」
隼人は静かに入部届を見つめた。
そして、名前を書く。
**『式神 隼人』。**
ペンを置き、先生へ提出する。
「よろしくお願いします。」
その小さな一歩が、誰も想像できない未来へとつながっていく。




