彼女のことを忘れないように彼女と過ごした日々を胸に刻み込む
僕の家は1000メートル近い高さのあるタワーマンションの、上層階にある。
僕はベランダの柵によりかかるようにして、ベランダの外側に浮かんでいる女の子の顔をスケッチしていた。
女の子も同じように僕をスケッチしている。
空を流れる雲のように、彼女や彼女と同じように空に浮かんでいる人の姿や建物、田圃や畑もハッキリと見えているんだけど、触れる事もお喋りする事も出来ない。
だから僕と彼女は身振り手振りなどボディランゲージで意思の疎通を図ってる。
彼女は幽霊なんかじゃ無い、逆に彼女の方からすると僕の方が幽霊みたいな存在らしい。
どういう事か? って言うと、僕たちの世界の科学者と彼女の世界の科学者が、僕たちと同じようにボディランゲージで意思の疎通を図りながら一緒に調べたら、天文学的数字分の1くらいの確率で発生した、異なる世界って言うか次元が違う世界だったか並行世界だったかの世界が、重なりあってしまっているんだって。
そういう訳で僕たちは、お互いを見る事はできるけど触る事もお喋りする事も出来ないらしいんだ。
それに写真を撮ったりAIを含む機械に此の現象を記録させようとしても、写真に写らないしAIも重なりあっている向こう側の世界を全く認識出来ないでいる。
何故写真に写らずAIを含む機械に記録出来ないのか、彼女たちの世界と重なりあって5年の年月が経った今でも解明されて無い。
だから僕は彼女をスケッチしているんだ。
写真に写せず機械に記録を残せないのなら、紙に描くしかないからね。
何枚も何枚も彼女の姿をスケッチする。
最近彼女たちの姿が最初に見えるようになった頃より薄らいで来た。
科学者に言わせると、重なりあっていた2つの世界が段々離れ始めているらしい。
もう1枚描こうとして彼女を見たら、彼女の姿がさっきより薄らいでいる事に気がつく。
僕は持っていた画用紙と鉛筆を放り出し、触れないけど彼女の手に手を重ねる。
彼女も薄らいでいる事に気がついて同じようにしてきた。
僕たちはお互いを見つめ合う。
目と目を合わせお互いを見つめ合う、彼女の姿が消え去っても彼女がいた場所を僕は見続ける。
そして、彼女のことを忘れないように彼女と過ごした日々を胸に刻み込み続けていた。




