その服装、自由ではありませんの?
初出勤の日。
エレナは、鏡の前に立っていましたわ。
「……これは……」
手にしているのは、スーパーの制服。
ポロシャツに、エプロン。
色は実用一点張り。
「制服とは……個性を抑制するものですのね」
そう呟きながらも、きちんと袖を通します。
「……着ましたわ」
鏡に映る自分を、じっと見つめて。
「……不思議ですわね」
九条院家のドレスとも、学校の制服とも違う。
けれど、妙に違和感はありませんでした。
出勤。
バックヤードに入ると、山田さんがいました。
「おはようございます」
「ごきげんようですわ」
「……あ、うん。おはよう」
軽く挨拶を直される。
「今日は、品出しからお願いします」
「承知しましたわ」
台車に積まれた段ボール。
「……持ち上げる、ですの?」
「はい」
エレナは、慎重に箱を持ち上げました。
「……重たいですわ」
「無理しないで」
「ですが」
エレナは、歯を食いしばります。
「わたくし、働きに参りましたの」
よいしょ。
持ち上げ方が、妙に綺麗でした。
「……姿勢、いいな」
「育ちですわ」
品出し。
棚に並べる。
「こちらが……三十八円……」
もやしを置きながら、しみじみ。
「昨日は、お世話になりましたわ」
「自分で並べると、見え方違うでしょ」
「ええ」
「……尊いですわね」
「え?」
「この価格で、この存在感」
山田さんは、少し笑いました。
次は、レジ補助。
「レジは、今日は見学だけ」
「承知しましたわ」
ピッ。
ピッ。
商品の音。
「……この音、心が整いますわ」
「そう?」
「ええ」
途中、客が来ました。
「すみませーん」
「はい」
反射的に、エレナが答えます。
「こちら、どこですの?」
「えっと……」
一瞬、考えて。
「……お豆腐売り場は、あちらですわ」
自然でした。
山田さんが、目を丸くします。
「……接客、向いてるかも」
「当然ですわ」
初日の業務が終わり。
「お疲れさまでした」
「お疲れさまでしたわ」
着替えながら、エレナは呟きました。
「……立っているだけで……少々、疲れますわね」
「慣れますよ」
「慣れる、ですのね……」
帰り道。
夕暮れの中、エレナは思いました。
「ですが」
「悪くありませんわ」
労働は、
確かに、重たくて、
でも、少しだけ誇らしい。




