お金は増やすものですわ
家賃の引き落とし通知は、音もなくエレナのスマートフォンに届きましたわ。
「……まあ」
画面を見つめ、しばし沈黙。
五万八千円。
確かに、昨日佐藤さんに聞いた数字ですわ。
「……減りましたわね」
エレナは、きちんと計算します。
十万円から、家賃。
そこから、食費。
光熱費は、まだ来ていませんが――来る。
「節約はしておりますのに……」
ここで、エレナは気づきました。
「……増やせば、よろしいのでは?」
極めて自然な結論でした。
その日の夕方。
アパートの廊下で、佐藤さんと鉢合わせします。
「あ、九条院さん」
「佐藤さん。ちょうどよろしいところですわ」
エレナは、少しだけ真剣な顔で言いました。
「お伺いしたいのですが」
「はい?」
「お金を増やす方法をご存知ありません?」
佐藤さんは、思考を止めました。
「……え?」
「節約にも限界がありますの」
「……それは、そうですね」
数秒の沈黙のあと、佐藤さんは咳払いをしました。
「……アルバイト、っていうのは……」
「まあ」
エレナの目が輝きます。
「労働の対価、ですわね」
「理解、早いですね」
「合理的ですわ」
佐藤さんは、少し迷ってから言いました。
「近くの……激安スーパーなんですけど」
「……激安」
「以前から人手不足でして。学生さんも多いです」
エレナは、頷きました。
「承知しましたわ」
「え、即決?」
「紹介者がいらっしゃるのは、安心材料ですわ」
佐藤さんは、なぜか頭を下げました。
「……すみません、変な子紹介して」
翌日。
エレナは、スーパーの前に立っていました。
「激安スーパー ヤマダ」
「また来ましたわね……」
今度は、客ではなく――
「働く側、ですわ」
自動ドアが開きます。
「いらっしゃい――」
山田さんが、途中で止まりました。
「……あれ?」
「ごきげんよう。九条院エレナですわ」
「……まさか」
「本日は、面接に参りましたの」
山田さんは、天井を仰ぎました。
「……佐藤さんの紹介?」
「ええ」
「……なるほど」
この時、
山田さんは悟ったのです。
このスーパーに、
新たな“伝説”が生まれると。




