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仕送り十万円ですのに、なぜ生活が破綻するのですわ?  作者: 櫻木サヱ
お嬢様、一人暮らしを命じられますの

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5/14

半額とは、誇りを試されますの


「……皆さま、ずいぶんと真剣ですのね」


エレナは、少し離れた場所から戦場を見渡していましたわ。

冷蔵ケースの前。

人々は静かに、しかし確実に距離を詰めています。


誰もが無言。

ただ、視線だけが商品に注がれている。


「これは……決闘前の静寂ですの」


山田さんは、半額シールの束を手に、ゆっくりと歩き出しました。


「順番に貼りますから、押さないでくださいねー」


その声を合図に、空気がさらに張り詰めました。


ペタ。


一枚、貼られる。


瞬間――

一人の主婦が、迷いなく商品を手に取ります。


「……!」


エレナの瞳が、大きく見開かれました。


「今のは……宣戦布告もなく……?」


「そういうものです」


山田さんの声は、どこか遠くでした。


ペタ。

ペタ。


次々と貼られる黄色い印。


そして、商品が消えていく。


「なんて……合理的な戦いですの……」


エレナは、深呼吸をしました。


「九条院家の名にかけて、無様な真似はできませんわ」


そう呟き、彼女は一歩、前へ。


狙いは、鶏むね肉。


元は四百円。

半額で、二百円。


「……お得ですわね」


貼られる、その瞬間を待ちます。


ペタ。


貼られた。


同時に、横から伸びる手。


エレナは、ほんの一瞬だけ迷いました。


――ですが。


「失礼いたしますわ」


優雅に、しかし確実に。

エレナは、商品を確保しました。


「……!」


周囲が、一瞬、ざわめきます。


「今の子……誰?」


「ですわ、って言った?」


エレナは、何事もなかったかのように、カゴに入れました。


胸が、少しだけ高鳴っています。


「……勝ちましたわ」


その後も、戦いは続きました。


半額の豆腐。

半額の納豆。

半額の食パン。


気づけば、カゴの中は、黄色だらけ。


山田さんが、遠くから見ていました。


「……強いな」


レジに並ぶ頃には、

エレナの心には、不思議な達成感がありました。


「節約とは……誇りを保ったまま、挑むものですわね」


会計。


「千二百四十八円になります」


「……」


エレナは、財布を開きました。


紙幣一枚。

硬貨が、少し。


「この量で……この金額……」


レジを抜けたあと、

エレナは、しみじみと呟きました。


「十万円……意外と、減りますのね」


空は、夕焼けでした。


アパートへの帰り道。

袋の中で、もやしがかさりと音を立てます。


「ですが」


エレナは、胸を張りました。


「わたくし、今日は勝者ですわ」


こうして――

超お嬢様は、

節約という名の戦場に、

確かに第一歩を刻んだのでした。

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