お金の使い方も学問ですわ
月初め。
エレナは机に正座し、封筒を三つ並べておりました。
「……仕送り、十万円」
声に出すと、やはり重みがあります。
「お金とは、数ではなく……敵ですわね」
まず家賃。
次に光熱費。
そして食費。
計算機を叩くたび、エレナの眉が寄っていきます。
「……余りますの?」
一瞬、希望が灯りました。
しかし次の瞬間、
教材費、交際費、日用品――
小さな出費が雪崩のように襲ってきます。
「……余りませんわ」
エレナは、紙いっぱいに家計簿を書き散らしました。
・食費は削る
・無駄遣いはしない
・贅沢は禁止
「完璧ですわ」
そう言い切った直後、
冷蔵庫を開けて、固まりました。
中には、豆腐と卵と、
なぜか高級そうな紅茶だけ。
「……なぜ、紅茶だけ立派ですの」
昨日、無意識に買っていたのです。
値段を見ずに。
「庶民の節約とは、紅茶を我慢することでは?」
昼休み。
エレナは購買の前で立ち尽くしていました。
「安いパン……ですわ」
手に取って、戻す。
また取って、戻す。
「ですが、これは……」
成分表示を読み込み、
首を傾げます。
「栄養的に、これ一つで一食……?」
結局、何も買わずに教室へ戻りました。
「節約、成功ですわ」
なお、お腹は鳴りました。
放課後。
まんぷく亭。
「今日、まかないあるよ」
山田さんの一言に、
エレナの目がきらりと光ります。
「……ありがたき幸せですわ」
皿に盛られた定食を見て、
エレナは思わず息を呑みました。
「これが……一食……?」
ご飯、味噌汁、主菜、副菜。
「家では、豆腐が主役でしたのに」
箸をつけると、
体の奥に温かさが広がります。
「……」
山田さんが様子を見て笑いました。
「ちゃんと食べないと、節約にならないよ」
「……節約とは、耐えることではありませんの?」
「続けること」
即答でした。
「食べて、動いて、また働く。
それが一番安上がり」
エレナは、箸を止めました。
「……学問ですわ」
夜。
アパートの廊下で、
大家さんとすれ違います。
「今日は元気そうだね」
「ええ。まかないという文明の利器を得ましたわ」
大家さんは吹き出しました。
「家計簿、つけてる?」
「つけておりますわ。
ですが、削り方を間違えている気がいたしますの」
「じゃあさ」
大家さんは、壁に貼られたチラシを指さします。
「削るより、整える、かな」
「整える……」
「必要なところには使って、
無駄なところを見極める」
エレナは、ゆっくり頷きました。
部屋に戻り、
エレナは家計簿を書き直します。
・食費:削りすぎない
・まかない:最大活用
・紅茶:一週間に一度まで
「……紅茶は、嗜みですわ」
そう書き添えて、満足げにペンを置きました。
「お金の使い方は……」
エレナは小さく微笑みます。
「生き方そのもの、ですわね」




