それでも自立したいですわ
朝の光が、カーテンの隙間から静かに差し込んでおりました。
エレナは目を覚まし、枕元の時計を確認して、ひとつ頷きます。
「……予定どおりですわ」
誰に言うでもなく、そう呟いてから起き上がりました。
最近は、少し楽になったはずでした。
バイトのシフトは減り、学校も配慮してくれている。
睡眠時間も、以前より確保できています。
それなのに。
「……なぜか、落ち着きませんの」
制服に着替えながら、胸の奥がざわつくのを感じます。
楽になったはずなのに、
まるで「何かを失っている」ような感覚。
朝、廊下で大家さんとすれ違いました。
「おはよう。今日は余裕ありそうだね」
「おはようございますわ」
エレナは一礼してから、少し考え込みます。
「……最近、皆さまが親切すぎる気がいたしますの」
「それ、悪いこと?」
「分かりませんわ」
即答できない自分に、少し苛立ちました。
「わたくしは、自立して生活しているはずですのに……
守られているような気がして」
大家さんは、靴箱に手を伸ばしながら首を傾げます。
「自立って、一人で全部やること?」
「……え?」
「一人暮らしして、学校行って、バイトして。
十分すぎるほどやってると思うけど」
エレナは唇を噛みます。
「ですが、それでは……
誰かに支えられていては、自立とは言えませんわ」
大家さんは、少し考えてから言いました。
「じゃあさ」
エレナは顔を上げます。
「倒れないように立つのも、自立じゃない?」
その言葉は、予想外の角度から飛んできました。
「倒れない……?」
「無理して倒れる方が、自立っぽいって思ってるなら、
それ、ちょっと危ない考え方だよ」
エレナは返事ができませんでした。
学校では、先生が提出物の確認をしながら言いました。
「最近、よく計画立てて動いていますね」
「ありがとうございますわ」
褒められているのに、胸が少し重い。
「支援を受けながらでも、
自分で管理できていれば立派ですよ」
その言葉に、エレナは微かに眉を寄せました。
「……それは、自立と呼べますの?」
先生は、驚いたように目を瞬きます。
「呼べますよ。
自分の限界を理解して、選択しているんですから」
エレナは、その答えを持ち帰ることにしました。
夕方。
まんぷく亭で、まかないを受け取りながら、
エレナは山田さんにぽつりと零します。
「わたくし、最近……楽をしている気がしますの」
「え?」
「以前より、余裕があるのですわ」
山田さんは笑いました。
「それ、悪いこと?」
「……自立していないようで」
「エレナちゃんさ」
箸を持ったまま、山田さんは言います。
「続いてるでしょ?」
エレナは、はっとします。
「前より、ちゃんと来てるし、ちゃんと食べてる」
「……はい」
「それが一番大事」
その言葉は、とても簡単で、
だからこそ、胸に刺さりました。
―――――
夜。
エレナは机に向かい、今日の出来事をノートに書きます。
「自立とは……」
ペンが止まりました。
「一人で立つことではなく、
倒れないように選び続けること……ですの?」
書いてみると、少しだけ納得できた気がします。
「……それでも」
エレナは、背筋を伸ばしました。
「わたくしは、自分の足で歩いておりますわ」
助けを借りても、
支えがあっても。
その選択をしているのは、自分自身。
「それが、わたくしの自立ですわ」
そう呟いて、
エレナはノートを閉じました。




