疲労は、音もなく忍び寄りますの
その日は、朝から少しだけ、世界が重く感じましたわ。
「……おはようございますわ……」
声が、ほんの少し遅れる。
教室の椅子に座ると、
いつもより、深く沈む気がしました。
「九条院さん、大丈夫?」
「問題……ありませんわ」
嘘でした。
ノートを取ろうとして、
ペンを落とします。
「……」
拾いながら、思いました。
「……手が、重たいですわ……」
昼休み。
もやし弁当。
「……またもやし?」
「安定供給ですわ」
「栄養……足りてる?」
「……たぶん」
体育の時間。
準備運動で、息が上がります。
「……」
「九条院さん?」
「……少々……」
視界が、揺れました。
放課後。
「今日は、無理しないで」
山田さんの声。
「……いえ」
エレナは、首を振ります。
「休めば……収入が……」
「……」
「……すみませんわ」
レジに立ちながら、
数字が、少し滲みます。
ピッ。
「あ……」
商品を、取り落としました。
幸い、割れませんでしたが。
「……ごめんなさい……」
声が、かすれます。
休憩室。
椅子に座った瞬間。
「……立てませんわ……」
山田さんが、すぐに来ました。
「九条院さん、今日は上がろ」
「……でも……」
「今日は、もう十分」
帰り道。
夜風が、少し冷たい。
「……限界、ですわね……」
部屋に戻り、布団に倒れ込みます。
「……十万円……」
頭の中で、数字が回ります。
「……働いて……学校……」
目を閉じると、
半額シールが舞いました。
「……」
眠りに落ちる寸前。
「……無理は……美しくありませんわね……」
それが、
エレナの、本音でした。




