秘密は、意外と大きな音を立てますの
「……ねえ、さっきの、どういうこと?」
放課後の教室。
鞄を持ったままのエレナは、数人に囲まれていましたわ。
「労働って……冗談、だよね?」
「ええっと……」
エレナは、ほんの一瞬だけ考えました。
「冗談では、ありませんわ」
空気が、止まります。
「……バイトしてるの?」
「はい」
「……お嬢様が?」
「お嬢様ですけれど」
その返しに、ざわっとしました。
「なんで!?」
「家、お金持ちじゃないの?」
エレナは、少しだけ背筋を伸ばします。
「仕送りは、十万円ですわ」
「……少なくない?」
「ええ」
即答でした。
「だから、働いておりますの」
クラスメイトの一人が、ぽつり。
「……なんか……すごく現実的……」
「合理的ですわ」
そこへ、別の子。
「どこで?」
「……」
一瞬の沈黙。
「……近所の、スーパーですわ」
「……え」
「……あの激安?」
エレナは、誇らしげに頷きました。
「はい。もやしが三十八円の」
「具体的すぎる……」
「半額は、戦場ですわ」
「……え」
情報量が多すぎました。
その日の帰り。
エレナは、スーパーの制服に着替え、バックヤードに入りました。
「お疲れさま」
「お疲れさまですわ」
レジに立っていると。
「……あれ?」
聞き覚えのある声。
顔を上げると、クラスメイトでした。
「……九条院さん?」
「……ごきげんようですわ」
沈黙。
「……マジで、バイトしてる……」
「事実ですわ」
レジの列が、少しだけ詰まります。
「……すご」
「……ギャップやば」
エレナは、淡々とレジを打ちました。
ピッ。
「ありがとうございますわ」
その夜。
アパートに戻り、エレナはベッドに座ります。
「……隠すつもりでしたのに」
ですが。
胸に、妙な違和感はありません。
「……別に、悪いことではありませんわよね」
むしろ。
「ちゃんと、生きておりますもの」
そう呟いて、灯りを消しました。




