初給料は、軽くありませんわ
その日、エレナは小さな封筒を受け取りましたわ。
「……こちらが」
山田さんが、差し出します。
「今月分ね」
「まあ」
白くて、薄い封筒。
「これが……」
「給料」
エレナは、両手で受け取りました。
「……ありがとうございますわ」
封筒の中身は、まだ見ません。
重さを、確かめるように、そっと持ち直します。
「……不思議ですわね」
「え?」
「十万円より……軽いですのに」
山田さんは、黙って聞いていました。
「ずっと……重たく感じますわ」
帰り道。
エレナは、いつもよりゆっくり歩きました。
アパートの前。
ポストを開けると、請求書が一枚。
「……電気代」
金額は、想像よりも現実的でした。
部屋に戻り、机に封筒を置きます。
椅子に座り、深呼吸。
「……開けますわよ」
中には、明細と、現金。
数字を、指でなぞります。
「……この時間……立って……失敗して……」
思い出が、数字に重なります。
「……これが……」
労働の対価。
エレナは、財布を開き、そっと入れました。
「……簡単に、使えませんわね」
その夜。
もやし炒めを食べながら、エレナは呟きました。
「十万円は……最初から、そこにありました」
箸を止めます。
「でも……これは」
自分で、増やしたお金。
「……大切に、しますわ」
窓の外。
夜の街は、いつも通り。
ですが、エレナの中で――
確実に、何かが変わっていました。
「……わたくし」
小さく、微笑みます。
「ちゃんと、生きていますわね」




