7.友人からの誘い (応援団結成)
「新婚生活はどうだ、エミディオ」
こいつには結婚してからずっと妻自慢を聞かされ続け、5年前からは娘自慢が追加された。
鬱陶しいと思っていたが……
「うちの子は最高に可愛いぞ」
自慢したい気持ちが分かってしまった。
「な!エミディオが笑っただと!?
それもまさかの嫁自慢!」
グイドの声が大き過ぎて、会議に集まったメンバーから視線が集中した。
「おー、そういえばおめでとう。結婚したのだったな。もっと大々的に式を挙げればよかったのに」
「本当だよ。お前が自慢するなんてよっぽど綺麗なのか?式が見れなくて残念だったよ」
……確かに。今ならばもっと似合うドレスを選んで綺麗にしてやるのに。
いや、駄目だ。ドレスを買うことにはまったく問題ないが結婚式は駄目だろう。
アリーチェにもモニカにも申し訳が無さ過ぎる。
「そうだ、今度娘の誕生日パーティーを開くんだ。よかったら夫人を連れて来いよ。うちの奥さんにも紹介したいんだ。
確かまだ若いよな?社交慣れしてないだろうから、ディーナなら色々手助けできると思うぞ」
「なるほど。ありがとう、行かせてもらおう」
グイドは公爵家の三男で、結婚する時に子爵位を貰っている。奥方の実家は伯爵家だ。
彼等がアリーチェを手助けしてくれるなら心強い。
「私は社交が苦手だから助かるよ。そうだ、若い娘が喜ぶ物はなんだと思う?」
「お前、本当にエミディオか?……ちょっと来い。向こうで話そう」
グイドが私を引っ張って他の空き部屋に入る。
何が言いたいのかは分かった。
「お前、モニカさんはどうするんだ。ちゃんと別れたのか?」
やはりな。グイドは同級生だ。モニカの事もよく知っている。学生の頃から何度か相談もしたから。
だが……
「……心配を掛けてすまない。モニカのことは真剣に考えているよ。悪いがこれ以上は言えないんだ」
「お前……、そんなんでよく奥さんの自慢なんかできるな!どうするつもりだ、二人とも不幸にする気か!?」
グイドの憤りは良く分かっている。
自分がどれだけ最低なことをしようとしていたのか。いや、してしまったのか。
自分の幸せの為に、アリーチェを利用しようとしたのだ。軽蔑されて当然だ。
「アリーチェのことは絶対に幸せにすると誓った。その気持ちに偽りは無い」
「そういう台詞はモニカさんのことを解決してから言えよな。馬鹿か」
「ああ、大馬鹿だと初夜で気付いた」
「……遅いって。で?アリーチェちゃんは許してくれたのか。待っててくれるのか?」
これ以上は契約内容に引っ掛かるから言えないのだが、どうするかな。
「あの子は3年だけ待ってくれるらしい」
「……どれだけいい子なんだ……。
もう絶対にアリーチェちゃんをパーティーに連れて来い。不憫で仕方がないから俺達夫婦が守ってやる!
お前はモニカさんのこと早くに解決しろよな」
「……ありがとう」
こんなに心配してくれているのに嘘をついて申し訳ない。だが。
「勝手にうちの子のことを馴れ馴れしくちゃん付けで呼ばないでもらおうか」
「は?」
大事なことは言わせてもらう!
これは譲れない。
◇◇◇
「ただいま」
「おかえりなさい!」
アリーチェが飛び付いて来た。
ちゅっ
朝より自然に頬にキスをしてくれた。
「あれ、違った?帰ってきた時はしないの?」
「いや、自分からしてくれて嬉しかった」
アリーチェの頬に私からもキスをする。
「今日はどうだった?」
「色々教えてもらったわ!トビアはお話し上手ね。とても分かりやすかったし、あなたの子供の時の話も聞いちゃったわ」
「私の?とくに楽しい話などないだろう」
この子はいつも楽しそうに話すな。
私と喋っても面白くないだろうに。
つい頭を撫でたくなる。結っていない場所ならよかったのだよな?
しっかりと確認して……
「ちょっと待て。コレはなんだ?」
アリーチェの袖口から包帯が見える。
朝は怪我などしていなかったぞ!
「……あ、エッチ!」
「それで誤魔化したつもりか?ちゃんと説明しなさい」
残念ながら子猫にエッチと言われて動揺するはずがない。
「……エミディオ様が出掛けられた後、ガヴィーノ様に会って……」
「犯人はあいつか。それで?」
「腹立つことを言われたから、つい言い返したら逆上しちゃって、不味いなと思って走って逃げたんだけど腕を掴まれちゃいました。
あ、でもね!それだけですよ?
その後は大声出して助けを呼んだから、ガヴィーノ様はそのまま逃げちゃいました」
庇っているのか?それとも本当にこれだけか?
「見せてみろ」
「え〜、せっかく綺麗に巻いてくれたのに」
「いいから、おいで」
ひょいっと抱き上げる。やっぱり軽いな。
「ちょっと?足は無事なのにどうして抱っこするのよ!」
「私が運んだ方が早くに着くからだ。騒ぐと落ちるぞ」
「降ろせばいいでしょう!」
毛を逆立て怒ってる子猫は無視する。
椅子に座らせ、包帯を外していく。
その下からは、大きな痣が現れた。
どれだけ強く掴んだのだ!
「この家にこんなにも愚かな行為をする馬鹿がいたとは……危険性は無いと言ったのに、すまなかった」
「え?エミディオ様のせいじゃありません!
私が煽ったのもよくなかったんだし」
「君が我慢出来ないくらいの事を言われたのだろう。それなら悪いのはアレだ。
これ以上は許さない。明日にでも追い出そう」
「え!?」
「ん?仕返しがしたいか?だが、君の手を煩わせる程の価値はない。一日だけ我慢しておくれ」
ノーラから新しい湿布を貰い包帯を巻き直す。
「仕返しなんてする気は無いです。だって時間と労力の無駄なので。でも、追い出しても大丈夫なの?」
やめろとは言わないのだな。
それ程のことを言われたということか。
「あぁ、あいつはここにいても仕事をするわけではないからな。それどころか、お前に傷を負わせる様な愚かな事しかできないんだ。誰も止めないだろう」
もともと私を結婚させる為の脅しの為だけに置いていた様なものだ。その大切な新妻に手を出したんだ。父上も許さないだろう。
「……私のこと、叱らないの?」
「ん?まぁ、怪我をしない様に気を付けては欲しいな。まだ使用人のことも覚えていないだろうから、暫くはノーラと行動を共にしてくれると安心できるのだがどうだろう」
本当は護衛騎士を付けたい所だが、絶対に邪魔だと言うだろう。ノーラならもう慣れているしどうだ?
「……分かったわ」
よし、猫に鈴を付けることに成功した気分だ。
「心配してくれてありがと」
「どういたしまして」
そっと結っていない場所を撫でる。
今回は文句を言われなかった。