はじめまして 2nd【後編】
今日はガヴィーノが来るらしい。
モニカさんが結婚したことを知らせた時は、とても落ち込んでいたらしいけど元気になったのかしら。
でも彼が赤ちゃんのお祝いに来てくれるとは思わなかったわね。少しは大人になったのかな?
「アリーチェ」
「エミディオ様、どうしたのですか?」
「……ガヴィーノが来た」
うん?知ってるわよ?お手紙が来てたもの。
「女性を連れて来たんだ」
「えっ」
「……平民、の、ようだ」
こんなエミディオ様は初めて見たかも。
もしかして、モニカさんが結婚したショックで似ている平民女性に手を付けたとでも思ってるのかな?
「エミディオ様、大丈夫ですよ。ここまで連れて来たならちゃんと交際しているということでしょう?」
「……そうか……そうだよな」
何だかんだいって、弟が心配なんだよね。
そのくせ思いっきり殴ってるし。ガヴィーノもあれだけ反抗してて本当はお兄ちゃん大好きだっていうのだから男兄弟は謎だわ。
「さ、お待たせしたら悪いわ。行きましょう?ウィルフレドをお願い。最近重たいのよ」
ウィルを抱けば落ち着くでしょ?
「ありがとう、アリーチェ」
「ふふ、どういたしまして」
さて。行きましょうか。
「兄さん、その子が?」
「ああ、ウィルフレドだ」
「……うわ、兄さんの子供の頃にそっくりだ。すごい可愛い。よかったな、おめでとう」
いや、誰だよお前は。
入るなりウィルフレドに目を輝かせている。素直なガヴィーノが気持ち悪い。
「あ、俺の方も紹介していいかな。この子はダリア。結婚を前提に付き合ってる。ぜひ兄さんに会ってほしくて連れて来たんだ」
「はじめまして、ダリアと申します。薬師の資格を持っていて、薬局を営んでおります。よろしくお願いします」
すごい。若いのにお店を経営してるんだ。
モニカさんみたいにすっごく美人というわけではないけど、笑顔がとっても可愛らしい女性だ。
「初めまして。ガヴィーノの兄のエミディオだ。こちらは妻のアリーチェ」
「アリーチェです。よろしくお願いします」
当たり障りなく挨拶すると、とってもキラキラした目で見てくる。この人可愛いわ。
「ガヴィーノの嘘つき!お兄様の奥様、すっごく美人さんじゃない!モニカさんといい貴方の周りは美人しかいないの?」
「そうか?モニカは認めるけどコレは知らない興味無い」
やっぱりガヴィーノは腹立つな?
「私は人の事をアレとかコレとか物みたいに呼ぶ人は好きじゃないよ。どうして悪ぶるの?」
「……ごめん」
「うん。私にじゃないよね?難しい?」
「……大丈夫……
アリーチェ……さん。失礼な態度をとって申し訳ありません。あと、今までも色々と……悪かった……です」
誰コレ。
良くできました、とわんこの様に頭を撫でられて喜んでる。
え、調教されてるの?この子凄くない?!
「……いえ。謝罪を受け入れます。
というか、前と同じで呼び方でいいし敬語もいらないわ」
だって今更気持ち悪いよ?!
「あの、アリーチェ様、ガヴィーノをお許し下さりありがとうございます。本当は彼もずっと気にしていたんです。でもいざとなると素直になれなかったみたいで申し訳ありません」
「ごめんっ、俺が悪かったからダリアは謝らないで」
「どうして?せっかく二人でいるんだよ?ちょっとくらい手助けしてもいいでしょ?」
「……ありがと」
何度でも言う。誰?
「ダリア嬢、ガヴィーノを救ってくれて感謝する」
「えっ!救うだなんて!私は大したことしてないし、助けてもらう事もたくさんあります!
えと、私は彼の事が大好きなので……側にいることをお許しいただけませんか?」
……本当にガヴィーノのことが好きなんだ。
初めて会う強面伯爵なんて本当は怖いだろうに、ガヴィーノの為に頑張って……
「ダリアさん、なんていい子なの!」
思わず声に出てしまった!
「あ、ありがとうございます?」
やだ、へにゃっとした笑顔が凄く可愛い。
モニカさんとタイプは違うけど、凄く包容力がある所は似てるかも。こんなにいい子なのにガヴィーノなんかでいいの?と聞きたい!さすがに聞けないけど!
「ダリア嬢は本当にガヴィーノでいいのだろうか」
エミディオ様が聞いちゃったわ!
「?平民の私がダメ出しされるなら分かりますが、ガヴィーノは何も問題なんか無いですよ?だってすっごく優しくて、少しだけ繊細で。人の痛みが分かる人ですもの」
……凄い……ガヴィーノの難点を少し繊細という表現で収められるなんて!
「ありがとう。こんな弟だが……私の大切な家族です。どうぞよろしくお願いします」
「やだ、頭を上げてください!困ります~!」
「……兄さん……」
「ちょっ、ガヴィーノ泣かないで?よかったね、お兄さんと仲直り出来たね、嬉しいね」
よしよしと抱き締めてる。もうママと呼んでもいいのではないだろうか。ガヴィーノ恐るべし。すっごい子を捕まえたな。
「あの、私のことはダリアと呼び捨てにして下さい。嬢だなんて照れてしまいますから」
本当にいい子だわ。
「ありがとう、君も私達のことは名前で呼んでくれ」
「え」
「いずれ家族になるのだろう?」
「……これがアベルさんの言っていたゴリ押し……」
「アベルさんを知っているのですか?」
「はい、うちのお店のお得意様です。先日、モニカさんにもお会いしました。綺麗な方ですよね!」
凄くいい笑顔だけどガヴィーノが惚れまくっていたのを知っているのかしら。
「……すみません、モニカさんとの事情をガヴィーノから聞いてしまいました。彼の悩みを聞く流れで。申し訳ありません」
「いや、もうずいぶんと前に終わったことだ。私達は今ではアベルを含め仲のいい友人なんだ」
「よかったです。ガヴィーノもアベルさんと友達になったんですよ!」
「いや、別に友達には……」
「だってよろしくガヴィーノさんって言っていたじゃない。あの人は猛獣系だから仲間だと認めないとよろしくしないはずよ?」
ダリアさんは本当に凄いわ。尊敬する。
「ダリアさん、私とも友達になってもらえませんか?」
「本当ですか?私でよければぜひ!」
「今度モニカさんも呼んで一緒にお茶会しましょう?」
「嬉しいです!けど、マナーが分からないの。大丈夫かな」
「3人だけだもの、気にしないで楽しみましょうよ」
ウキウキと計画を立てていると、ガヴィーノが落ち込んでいる。女友達にも嫉妬するのか。
「どうせアベルさんもついてくるだろうし、男性陣も混ざる?」
「……ありがとう」
混ざるのか、混ざりたいのか!
ガヴィーノが面倒臭い進化を果たしたけど、なんだかエミディオ様も嬉しそうだ。
仕方がないわね、許してあげましょう。
兄弟が仲直りできて本当によかった。




