はじめまして 2nd【前編】
「あれ、アベルさんだ」
久しぶりに見る憲兵副隊長はやっぱり危ないスジの人に見える。最近はガヴィーノの優しい顔立ちに見慣れてしまったから余計だろか。
「悪い、傷薬をくれ」
「病院嫌いが珍しいですね」
「……心配するから」
お?この反応はまさか!
「彼女さんですか?」
処方箋を見ながら薬を用意する。恋のお話は女子の好物。それも女の人に本気にならなそうなアベルさんだもの、ぜひ聞きたい!
「違う、妻だ」
ドヤッ!って顔してる。こんな人だっけ?
「知らなかった!おめでとございます。でも、いつの間に結婚されたんですか?」
「5ヶ月前だな」
うわ、思い出し笑いなの?こんな優しそうな顔は初めてみた。
「いいな、幸せそうですね!」
「ダリアも彼氏ができたと病院長が嘆いていたぞ。息子の嫁になるはずだったのに、だとよ」
「もう、院長ってばすぐ揶揄うんだから」
お隣の病院はうちの薬局に患者さんを回してくれるからとても助かっている。皆優しいんだよね。
「あ~、まぁいいか。鈍いのがお前のいいところかもな」
そう言って頭をクシャクシャと撫でられる。
私は犬猫じゃないから止めてほしい。
止めようと思って手を掴んだその時、
「誰だアンタ、ダリアから手を離せよ」
「アベル、何をしているの?」
裏口から入って来ただろうガヴィーノと、入り口から入ってきた綺麗な女性が同時に冷たい声で口撃してきた。
「「「「え」」」」」
全員の動きが止まった。
「モニカ誤解だ!」
「どうしてガヴィーノ様がここに?」
「ダリア、こっちにおいで」
「モニカさんってまさかあのモニカさん?!」
同時にバラバラのことを叫んで大混乱となった。
アベルさんはモニカさんに誤解されたと思って焦っているし、モニカさんはそんなアベルさんを無視してガヴィーノに話しかける。そんなガヴィーノはとりあえず私を確保して抱き締めてくるし、私は噂のモニカさんの美しさにドキドキしてしまった。
「ガヴィーノ落ち着いて、誤解だよ?
えっと、こちらは憲兵副隊長のアベルさん。傷薬を買いに来てくれて、私に彼氏が出来たのを揶揄って頭をガシガシしただけだよ。
で、たぶんこちらがアベルさんの奥様のモニカさん。ですよね?」
「……そうです。突然来て騒いでしまってごめんなさい。アベルの妻のモニカです。彼が怪我をして病院に行ったと聞いたから驚いてここまで来てしまったの」
「そうだったんですね。大丈夫ですよ!処方箋を見る限り、そこまで酷い怪我じゃないみたいです。奥様に心配をかけない為に受診したんですって!」
モニカさん美人さん!柔らかい声がいいなぁ。
あ、ガヴィーノ大丈夫かな?
「……どうしてモニカの旦那がダリアと仲がいいんだよ……」
あ、拗ねてる。でも嬉しいな。モニカさんのことじゃなくて、私の事を一番に気にしてくれるんだ。
「……なぜお前がモニカの名前を口にするんだ」
わお!アベルさんが威嚇モードに!怖っ!
「アベルさん!ガヴィーノはバルディ伯爵の弟さんですよ。モニカさんの古い知り合いです。
ガヴィーノ、アベルさんは憲兵のお仕事をしているからちょっとした怪我とか、同僚の付き添いとかでうちの店を利用してくれてるの。
同じ平民だから、私の稼ぎの為に協力してくれてるありがたいお客様だよ?」
ちゃんと目を見て宥める。本当はアベルさんのことがちょっと怖いくせにね。
「本当に?」
「うん。それに、憲兵が利用する店だって知られてるから防犯対策にもなってるのよ」
これも本当。やっぱり女が店主の店は危険もあるから。平民同士で助け合いなのだ。
「あの……突っかかってすみませんでした。ダリアを守ってくれて感謝します」
えらい!自分から謝れた!
私のため?私の為だからかな?
嬉しくて抱き着いてから頭を撫でてしまう。ガヴィーノも嬉しそうだ。耳元で『合ってる?』と小声で聞いてくる。もう!大好きだ!
「すごい……ガヴィーノ様が操縦され……じゃなくて、ずいぶん変わられましたね」
今、操縦って言った……いや、気のせい。気にしては駄目なヤツだ。
「あの、はじめまして。この薬局の店主でダリアといいます。ガヴィーノとおつき合いさせていただいています。よろしくお願いします!」
まるでご両親への挨拶みたいになってしまった。
「ふふ、ガヴィーノ様は素敵な方と出会えたのですね。よかった」
そうやってふんわりと笑ってくれる。うわ、これか、この包み込む様な優しさに惚れちゃったのね!
「うん、俺なんかを大好きだって言ってくれる本当にいい子なんだ」
「もう!なんかは禁止だって言ったでしょ」
「そうだった。ごめんね?」
くそう、その甘えた表情に弱いんです!
「……すき」
あ、心の声が飛び出た。
ガヴィーノがぎゅうぎゅうに抱きついてきた。
「おい、俺は何を見せられているんだ」
呆れ顔のアベルさんと微笑ましそうに見るモニカさんと目が合う。
「えと、ごめんね?」
だって付き合いたてなんだもの、許して。
「エミディオさんの弟ってことは貴族だろ。お前大丈夫なのか?」
「なんでアンタが兄さんを名前で呼ぶんだ」
「本人からのゴリ押しだよ!」
ガヴィーノはお兄さんが大好きだからなぁ。
「ガヴィーノ。モニカさんの旦那様だもの。もうお友達なんじゃない?」
「そうなの。強面仲間に認定されたみたいよ?」
「……どうせ俺はいつも仲間外れなんだ」
面白いな、ガヴィーノの思考回路は。どうしてすぐに落ち込めるんだろう。
「優しい顔はだめ?私は大好きなのに」
「……ダメじゃない」
「そうね、絶対に駄目じゃないわ。ガヴィーノ様はダリアさんがいれば安泰よ。ご両親も認めてくれると思うわ」
まさかのモニカさんからの後押しをいただけた。
「おい、簡単に言うけどさ」
アベルさんはまだ不満そう。だって貴族だもんね。きっとモニカさんが別れた理由も知ってるだろうし。
「アベルさん、心配してくれてありがと。でも本当に大丈夫!私はガヴィーノが好きって言ってくれて側にいてくれたら幸せだもん。形はね、なんでもいいの」
別に結婚できなくても家族にはなれるよ。
私はもうガヴィーノ以外は考えられないから。
「アベル、今はエミディオが当主だからきっと大丈夫よ。弟の幸せを邪魔したりしないわ」
「……わかった。何か困ったことがあれば、俺やモニカに相談しろよ」
「うん、ありがとうね」
アベルさんは何だかんだ面倒みのいいお兄ちゃんって感じだ。感謝~~ちょっと拝んでおこうかな。
「あの、アベルさん。ご結婚おめでとうございます。モニカは俺にとって……姉の様な人なので絶対に幸せにしてやって下さい。
俺もダリアのことは絶対に幸せにするように頑張ります。この店のこと、これからもよろしくお願いします」
深々と礼をする。貴族なのに、平民相手に。
「……わかった。疑って悪かったよ。ここは俺達にとっても大切な店だ。もちろんこれからも利用させてもらう。
よろしくな、ガヴィーノさん」
うわ、なんかちょっと感動してしまう。本当に両親への挨拶みたい。お父さんが生きてたらこんな感じだったのかな。
「パパ……」
「やめろ、せめて兄だ」
モニカさんに笑われてしまった。
でもこれでガヴィーノもお友達になれたかな?




