21.朝の出来事、夜の約束 (祝賀会準備)
んん……体が動かない……
目を開けるとエミディオ様の腕がぎっちりと私の体を抱えているのが見えた。なんなら足まで絡めている。
ここまでしなくても……思わず呆れてしまうが悪い気はしません。
モゾモゾと後ろを向き、エミディオ様の寝顔を眺める。
……眉間のシワが無い
なんだか少しだけ幼く見える無防備な顔。
この顔をモニカさんも見たのかと思うと……ちょっと嫌な気分。仕方がないのは分かってる。出会ってもいなかった頃のことだし。
でも……
ガブッ
「いてっ、……アリーチェ?」
腹いせに鎖骨に噛み付いてみました。
「おはよう。わたしは朝ごはんでは無いよ」
「……知ってる」
余裕の表情だわ。私ばかりドキドキイライラしてるのが悔しい。
「どうした?何を怒ってるのだ」
「……好きだなと思って」
「好きだと怒るのか?」
どうせ子供よ。ないものねだりしているの。
「……だって。私は全部初めてなのに」
あなたは全部経験済みなのがどうしようもなく寂しい。
「……ヤバイな。凄い破壊力だ」
嫌なことを言ったはずなのに、なぜかエミディオ様は嬉しそう。なぜ?
「そうだな、すべてが初めてなのは死ぬ程嬉しい」
そう言って、溶けそうな笑顔でキスをしてくる。
「んんっ、なんで首?擽ったいっ!」
「キスは頬や唇だけじゃない。これも覚えて」
そう言って、私を見つめながら胸元にまで口付ける。
や、やっ、やらしいっ!何その顔は!!
それ以上下がるとお胸が見えちゃうっ!
「あ」
「ん?」
「殴るの忘れたっ!」
忘れてたわ、あの破落戸!絶対にぶん殴ろうと思ってたのにっ!!
「……この状況で……どうしてそのことを思い出したんだ?」
「えっ、なんか怒ってる?」
「どうして思い出した。教えてくれるね?」
こ、怖い!笑顔なのに怖いわっ!
「いや、あの、えと」
「まさか私に言えないようなことがあった?」
「え、違うっ!」
「はい、説明しようか」
誤魔化せない……いや、でも何も無かったし。
「……あの破落戸が私の胸が……もう少し、あとちょっとだけね……大きかったらよかったのにって……」
「……は?」
「違うの!触ったりなんかさせてないから!ただ、見た感じでっ!それで俺が大きくしてやろうかとか言うから、絶対に殴ろうと思ってたのっ!」
「……なるほど」
怖いよぉ、嫌な目にあったのは私の筈なのに!
「あ、ねぇ。ノーラがエミディオ様にお願いしたら大きくなるって言ってたわ。本当なの?」
ついでにこれを聞いてしまおう。だって……もし本当に大きくなるなら、本当に少しだけお願いしたいかもしれない。
「……ノーラめ……」
「あ!ノーラを怒ったら駄目よ?私の為に教えてくれたのだから。それに無理ならいいわ、仕方がないもの」
この話題はもうお終いにしよう。なんだか恥ずかしくなってきた。
「……必ずとは言えない。が、君が望むなら試してみようか?」
「えっ、いいの?」
「もちろん。アリーチェこそ本当にいいのか?」
「私こそもちろん!お願いするわ」
「喜んで。でも、私は大きさにこだわりは無いから。君に触れられるだけで幸せなんだ」
……知らないことを簡単にお願いしてはいけないということを身を持って学びました……
ノーラ、恨むわっ……こんなお願いをしてしまっただなんて恥ずかしいっ。
「あの破落戸を殴るのは止めてくれ。君が触れるなんて許せない。私が蹴っておくから安心しろ」
「ふふっ、ヤキモチ?」
「当然だ。君が触れていいのは私だけだ」
「じゃあノーラは?」
「……最低限の接触で」
エミディオ様がこんな子供っぽいことを言うなんて!
「あははっ、それじゃあ子供ができたらどうするの?」
つい嬉しくて……言葉を間違えた。
「ち、違うのっ、あの」
「違うのか?」
「あの、だって、私じゃ魅力が無いかなって」
「……私は君が許してくれるなら抱きたいと思ってる」
だって昨日はキスだけだったし。
さっきだって……
だから、私にそういう魅力が足りないのかと、
「昨日は君が疲れ切っていたから。さっきは……かなり我慢した。
君は自分がどれだけ素敵な女性か、どれだけ私が欲しいと思っているか分かっていない」
うわ、うわ~~っ!ど、どうしたらいいの?
でももう朝です!そういうことって夜するものよね?
「……じゃあ、また夜にオネガイシマス」
「言ったな?嬉しいよ。まだまだ我慢しないといけないと思っていた」
あ、嬉しそう。本当に我慢してたんだ。
「へへっ、欲しがってくれてありがと」
「……まったく。君には敵わない」
なんだか凄い約束をしてしまったけど……幸せだからいいか。




