#3 第十八話 老剣士カリュート2
「二本目、始めっ!」
審判ファビアの合図で、二本目の幕が上がる。
ブラント、後がないようにも見えるが……
(水の剣は、30秒しかもたない。ギリギリだが耐えられる!あとはとにかく攻めて、押し切るぞ!)
やはり体力のハンデは大きい。試合が長引くほど、ブラント有利に思える。
「おおおあっ!」
ブラント、一気に攻めの手を強める。
座したままのカリュート、さすがに押され気味。
スタッ!
遂に、立ち上がる。
(水の剣か!)
ブラント、一瞬身構えるが、一向に攻撃に転じる素振りがない。
その前に押し切る!ブラント、手数を増やしてひたすら斬りつける!
立って体勢を整えたカリュート、一歩も引かずに、悠然と受け流し続ける。
一方的な展開に、またもや観客がざわめく。
そのまま、制限時間を迎える。
「判定、ブラント、一本!」
審判ファビアが叫ぶ。
文句なしの判定勝ち、これで五分!
ハア、ハア
攻め続けた、ブラント、肩で息をしながらつぶやく。
「なぜ水の剣を出さない……もう、スタミナ切れなのか!?」
「最終戦、始めっ!」
ブラント、号令と同時に斬りかかる!
「見事な受けだが、それだけでは勝てないっ!すまないが、押し切るぞ!」
カッ!カッ!カン!
さらに攻めのスピードを上げる。
相変わらず、最低限の動きで剣先を払い続けるカリュート。見事な名人芸だが……攻めの姿勢を見せられないまま、無常にも時間は過ぎてゆく。
審判ファビアは、関係者席の砂時計をちらりと見る。
あと30秒ほどで判定……
その時!しわに埋もれたカリュートの眼がギラリと光る。ゆるりと前傾姿勢を取り、剣を振りかぶる。
「……わが全身の流れ、大河の奔流の如し。」
ザッ!
一気に、猛烈な速さでブラントの懐に飛び込む!
「水の剣!」
低い掛け声と共に、流れるような、目にも止まらぬ速さの連続技を浴びせる!
「うおおおっ!」
カアン!カン!ガリイッ!
しかし、ブラントも慌てない!30秒なら耐えられる確信がある。10分攻め続けた!ここを凌げば、判定勝利は間違いない!
カン!カキイン!
ひたすら、大河の流れに抗うように、なだれ込む剣撃を避けつづける。
あと数秒だ!
……?
ここで!ブラントの動きがわずかに重くなる。
わずかな違和感。
カリュートのスタミナも、制限時間も、あと1秒で尽きる。
「……水切り!」
スパアッ!
カリュート、低い掛け声と共に、この日一番の大振り、水面をなぞるような、真横に剣一閃!
(ギリギリ、避けられるっ!)
ズンッ!
「……!?」
ブラントの脇腹にカリュートの剣が食い込む。
「カリュート、一本!一本っ!」
なんと鮮やかな逆転劇!
審判ファビア、劇的な幕切れに、絶叫する!
ブラント、片膝から崩れ落ちる。
(なぜだ……!なぜ避けきれないっ!)
関係者席に座るサイラスが、驚愕の表情を浮かべながら、この攻防を紐解く。
「すべてはカリュートの戦略だ!ひたすら攻め続けたブラントの体力は、すでに限界に近かった。しかし、攻めの高揚感から、本人はそれに気づかない。」
隣のシリウス、ユイノたちも息を飲んで聞き入る。
「疲労からほんのわずか、動きの鈍ったブラントに、最後の最後で切り札の一撃を浴びせる!」
シリウスも感嘆する。
「す……すごい……」
老剣士カリュート、高い技術と老獪な戦術で勝利をもぎ取る!
観衆は大歓声で二人の熱戦を讃える。
シモンズのいる客席に戻ろうとするカリュートを、ブラントが呼び止める。
「おっと、じいさん、こっちの小屋が控え室だ。ちょっと休んでいきなよ!」
「おお、そうか、疲れた、疲れたぞっ!」
疲労困憊の二人、肩を並べて、ふらふらと歓声鳴り止まぬ花道を通って、控え小屋へ向かう。




