#3 第十五話 思いを、馳せる
前半戦を終えて、関係者席のユイノ、メアリーたちも束の間の休憩。
ユイノがペンを走らせる。
「えーと、これで二回戦は……」
トーナメント表に書き加える。
【二回戦】
ファビア対ライネル
キャシー対サイラス
その組み合わせに、メアリーが息を飲む。
「どれも熱いわね……!キャシー姉さんに勝って欲しいけど……サイラス、意外と強いのよねー」
「酒は弱いくせにねっ!」
「キャハハハ!」
ユイノと盛り上がる。
あんなに強いのに、サイラスはいつでも、いじられキャラだった……
一方その頃、控え小屋では前半戦を終えたメンバーたちと、後半戦を控える者たちが交錯する。
「ファビア!さすがだな!」
「シリウス!次はお前の番だ、勝ち上がれよっ!」
「久々に見たぞ!サイラスの居合!」
「決勝でやろうぜ!ザガット!」
「リオネル!筋肉は、友達だからな!」
「おう!筋肉は決して、嘘をつかない!」
皆、盟友たちとエールを交換し合う。
一回戦、残り四試合……!
<一回戦・後半>
シリウス×ザガット
ブラント×カリュート
ジョスア×リオネル
クレア姫×
あれ、クレア姫の対戦相手は……?
…………
その喧騒から離れ、クレア姫は一人、静かなグラティア湖のほとりに佇む。
女王の槍を握りしめ、目を閉じる。そしてあの日に、想いを馳せる。
……エレニア王国、崩壊の日。
――――
エレニア城になだれ込むシャフタル帝国軍。
怒号とともに、あちこちから火の手が上がる。
ファビアを北の裏門に逃した女王ビアンカ。キャシーが必死に叫ぶ。
「女王様!ファビアと共に、裏門へ!」
「クレア!セリーナ!どこにいる!」
帝国軍の兵士をなぎ倒しながら、大広間を駆け回る。
「お母様!」
柱の影、逃げ遅れた姉妹の姿をようやく見つけ、駆け寄る。そして、付き添う衛兵キャシーに命じる。
「キャシー!クレアとセリーナを守れ!裏門はもう間に合わない。私が敵の主力を叩く!それまで、ここを動くな!」
キャシーが号泣する。
「女王様!私も、お供します!」
「ならん!お前以外、誰が姫を守るというのだ!」
きびすを返して、エルゲン将軍率いる帝国軍が押し寄せる、中央の大広間に向かう。
それが、ビアンカ女王の最後の姿だった。
偉大なる女王、そして完璧なる母親。
そして、ビアンカ女王が散り、クレア姫たちの眼前にも帝国軍の兵士が迫る。
一人、キャシーが剣を構える。そこにエルゲンの冷酷な声が響く。
「エレニア王国は滅びた!これ以上の戦闘は無意味だ!」
(ここで無駄死にしては、女王様への面目が立つまい……)
キャシーは、そっと地面に剣を置く。
囚われの身となるが、命は繋がる。
愛する人たちを、守る。
それが、エレニアの女王。
私も、守りたい。
愛する人たち、すべてを。
(そろそろ、行かなきゃ……)
クレア姫もまた、強い決意でトーナメントに挑む!
トーナメント一回戦、後半戦まもなく開幕!




