#3 第十四話 最強の剣士、サイラス登場!
熱戦続きの闘技場は、沸騰した大釜のように熱気をはらむ!
歓声が渦巻く中、ユイノの張りのあるアナウンスが空気を切り裂く。
「一回戦、第四試合……エレニア軍大将、サイラス!」
「うおおおおっ!」
「サイラス!サイラス!」
「頼むぞ、大将!」
元エレニア兵たちを中心に、嵐のような大歓声。最前列では、マリーが祈るように両手を胸に組み、サイラスの勇姿を見つめる。
少し遅れて、セレシオが登場。
ユイノが再び声を張り上げる。
「トリックスター!道化師、セレシオ!」
「いけえええっ、セレシオォ!!」
「セレシオさん!頑張ってください!」
控え小屋から駆け戻ったルビオ、シラバスたちも、道化師仲間に目いっぱいの声援を送る。
本戦の審判、ファビアが一歩前に出て、手を振り下ろす!
「一本目、勝負、始め!」
……だが……?
サイラス、中央で仁王立ち!
長剣を腰の鞘に納めたまま、微動だにしない。
ファビア、再び号令を飛ばす。
「始めっ!!」
セレシオは、小柄な体をさらに低く折り曲げ、低い姿勢で構える。両手に持つ短刀は、まるで獲物を仕留める蛇の牙!彼もまた、道化師の戦いを貫く。
しかし、サイラスは動こうとしない。
ザザッ!
一瞬の沈黙を破る、土を蹴る音。
「行くぞっ!」
疾風のごとくセレシオが駆ける!
小柄な体をさらに折り曲げ、死角を突くように、一直線にサイラスの懐めがけて突進!
……だが……
ズンッ!
「……ぐッ!」
短い、鈍い音。
小さなうめき声が漏れる。
「…………!」
「えええっ……!」
カチャリ……
次に響いたのは、鞘に剣を納める澄んだ音。
膝から崩れ落ち、うずくまるセレシオ。
すべて、一瞬。
「い……一本!サイラス!!」
わずかな間の後、ファビアが震える声で宣言!
(な……何が起きたんだ!)
道化師のトリックをすべて無にする、圧倒的な速度。
「何であんなに早く動けるんだ?……」
呆然とするファビアに、諭すように告げる。
「居合だ。」
「イアイ……?」
「自らに向き合い、心と体と剣が一体となった瞬間を掴むのだ!」
剣士としても一流のサイラス、鍛錬怠らず、あらゆる武道に通じる。
「ピンとこないけど、覚えとこ……」
ファビアもまた、本気のサイラスから多くを学ぶ。
関係者席のメアリーが解説する。
「居合!……実戦に使うなんて!」
ユイノが驚いた表情で聞き直す。
「メアリー、知ってるの?」
古びた本を取り出して、パラパラとぺージをめくる。
「居合術……それは古代から伝わる剣技。剣を抜き、斬り、鞘に納める。そのすべてを一瞬で終える。予備動作がないから、飛び込んで来た敵は……避けられない!」
「へえ……ていうか、その本、どうしたの?」
「サイラスが貸してくれたの。解説するなら読んどけって。」
ユイノが本のタイトルをチラ見する。
「……”古武道大全、明星書房刊”……、なんか、怪しいわね……」
…………
闘技場では、呻き声が漏れる。
「うう……」
「いかん!やりすぎたか!」
ファビアとサイラス、うずくまるセレシオに駆け寄る。
「いってえ……かっこわりいけど、もう無理だ…」
「気にするな!俺が強すぎるだけだ!」
「ちくしょう、なんか……むかつく……」
ファビアが再び声を張る。
「一本!勝者、サイラス!!」
「うおおおおっ!」
沸き立つ歓声が観客席を揺らす。その中、サイラスは、ふらつくセレシオの肩を支えながら控え小屋へと戻ってゆく。
ブリキ・トーナメント一回戦、前半が終了!
熱戦はまだ終わらない!




