#3 第十三話 女剣士と、道化師
第三試合の直前、控え小屋。
初めての試合を前に、緊張でカチカチの少年シラバス。
道化師の師匠、ルビオと共に特訓した日々の成果を、ここで見せる!
激戦を終えたライネルとカリオスが小屋に戻る。巨漢の二人が入ると、狭い小屋がちょびっと膨らむ(ように見える)!
カリオスが激励する。
「次は小僧か!期待してるぞ!」
「は……はいっ!」
ライネルは、グラスにポトポトと生卵を放り込んで、試合後の一杯!
「シラバス!お前も景気付けに一杯どうだ?」
「遠慮しときます!」
わずか15才でのデビュー戦、控え小屋は試合前からお祭り騒ぎ!
少し遅れて、女剣士キャシーが登場。
「おおおっ!」
皆どよめき、男くさい小屋が一気に華やぐ。
鍛え抜かれたしなやかな体に甲冑をまとう。質素ながら要所に施されたオレンジ色の装飾。聖歌隊の仲間、タミアがこしらえたその軍装は、紛れもない、ビアンカ女王直属の衛兵!
「行くわよ!」
「は……はいっ!」
二人、肩を並べて闘技場に向かう。
「遅いわよ〜っ!」
ユイノが二人を出迎えて、改めて宣言。
「一回戦、第三試合!」
「わああああっ!」
北の大地で蘇る、ビアンカ女王の衛兵!エレニア民たちは大声援で女剣士を迎える。
「道化師の戦い、見せてやれ!」
シラバスの師匠、ルビオたち道化師の一団が最前列で声を枯らす。父親シモンズも祈るような目で見つめる。
歓声に負けじと、ユイノが声を張る。
「女王の衛兵、キャシー対、少年シラバス!」
「きゃああっ!かっこいい!」
女剣士、キャシーの威風堂々とした姿に、村の女性陣から歓声が飛ぶ。
本戦の審判、シリウスが号令をかける。
「三本勝負、一本目、始めっ!」
「悪いけど、手加減しないわよ!」
号令と同時に、キャシーの剣がシラバスに襲いかかる。
シャアアッ!
剣の風を切る音。
シュアッ!
「……!?」
鮮やかな連続技。しかし、全く手応えがない。
シラバス、小さな体を器用に折り曲げて、ひたすらキャシーの剣跡をかわし続ける!
シャアッ!
中段から真横に、美しい弧を描いて剣が走る。
シラバスは!大きく体を後ろに反らして避ける。そのままの勢いで地面に倒れ込む……いや、倒れない!すぐに体勢を立て直して、次の攻撃に備える。
観客席のルビオが声を枯らす。
「体幹だ!二人で鍛えた体幹!どんな攻撃にも揺るがないぞ!」
そう、ルビオは、道化師のバランス芸を通して、徹底的にシラバスの体幹を鍛えていたのだ!
女剣士キャシーが繰り出すのは、体格の勝る相手を想定した、大振りの攻撃が主体だ。体を縮めて自在に動く相手をなかなか捉えきれない。
さらにルビオが叫ぶ。
「そこだ!攻めろ!」
シラバスが応える。
「行きます!」
ザアアッツ!
シャッ!
一気に懐に入り込み、一瞬の隙を突いて、カウンター一閃!
カキンッ!
「くっ!」
キャシー、ギリギリのタイミングで受ける。
シラバス優勢!番狂わせなるか!?
キャシーは反撃すべく剣を振るが、長いリーチの攻撃はシラバスに通じない。
シラバス、器用に避けながら、再び一気に間合いを詰める。今度こそ、カウンターの射程内!そして短剣を振り上げる!
!?
シャッ!
その一瞬。キャシー、なんと剣を後方に投げ上げる!
パアン!
「いたたたっ!」
乾いた音と、呻き声が同時に響き渡る。
剣を投げ捨て、素手のキャシー。カウンターを狙って懐に潜るシラバスに、最短最速の攻撃、平手打ち!
「え……ええええっ!?」
審判シリウスも、一瞬混乱!
「ええと……いちおう、ヒットしたから……」
一瞬、ルールをなぞった後に……
「一本!キャシー!」
一瞬の間、その後に歓声。
「わああああ!」
手品を見るような、まさに道化師の戦い!そして、百戦錬磨のキャシーもトリックで応える!
意外な結末に、ユイノも絶句!
「……まさかの結末!でもなぜか、平手打ちが様になってるわね……」
メアリーも驚きつつ解説!
「キャシーはあれを、いつも言い寄ってくる悪い男にくらわせてるから、慣れっこなのよ!」
「そ…… そうなの?」
誰なんだろう……
……
「勝負あり!キャシー、勝ち抜き!」
そして二本目の勝負、シリウスがキャシーの勝ち名乗りを上げる。
さすがに体力尽きたのか、動きの鈍くなったシラバス。二本目は実力差どおり、なすすべなく敗れる。
パチパチパチパチ……
あと一歩まで、歴戦の衛兵を追い詰めた少年シラバスに、暖かい拍手が贈られる。
「アンタ、やるじゃない!」
「もっと、頑張って、強くなります!」
負けず嫌いのシラバス、目を真っ赤にして、控え小屋へキャシーと共に歩を進める。
(この子は、きっと、もっと、強くなる!)
その姿にキャシー、心打たれる。
一回戦、第三試合、キャシー勝ち抜き!




