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第九章 アルテリアの役務

かくして、処刑を逃がれたクレア姫たちは、アルテリアの外れにある古城の地下で、日々を過ごす。


しかし、処刑を逃れたのは、ルーサー王の気まぐれにすぎない。

その地位は常に危うく、処遇を持て余した末に、いつ,処刑という判断が下りても不思議ではない。


古城の地下には作業場が設けられる。

クレア姫たち元王族と、その従者たちは、処刑の恐怖に怯えながら、彼らを刺激しないよう、ひっそりと日々の役務をこなす。


幸い、パイ作りを始め、毎年店を開いている、王室のメンバーは様々な技術に長けている。

調理品、工芸品などの注文は多く、仕事は途切れる事なく続いた。


この暮らしに自由は一切ない。


作業中も、監視の目が厳しく光り、不手際があると、容赦ない叱責と鞭が飛ぶ。

私語も許されず、黙々と作業を進める。


仕事を終えると、点呼と共に、全員引き離され、即座に地下の独房へと収監される。


与えられのは、作業前と終わり、独房に戻った時に支給される、一切れのパンとスープのみ。

クレア姫も、セリーナ姫も、あらゆる感情を押し殺し、飢えと戦いながら、必死に日々を過ごす。


こんな中でも、従者たちは、エレニア王国の姫たちへの忠誠を決して忘れない。

ある者は衣服にパンを忍ばせ、またある者は調理品の余りを隠し、密かに育ち盛りのクレア姫、セリーナ姫にこっそり渡すのだった。


こうして、終わりの見えない、厳しい生活がひたすら続く。


そんなある日。

囚われた一行の中に、長く城で姫たちの世話役を勤めていた、初老の女性がいた。

彼女の名はテリム。


「ごほっ!ごほっ!」

朝から様子がおかしい。過酷な生活は、容赦なくテリムの体力を奪っていた。

クレア姫たちは、看守の目を盗んで介抱する。

「はあ、はあ、はあ」

その日の午後、テリムは荒い息を吐きながら、遂に床にうずくまったまま動けなくなる。


「テリムおばさん!」「テリムさん!」

皆、作業の手を止めて彼女の元へ駆け寄る。


その時、作業部屋に看守の怒号が響く。

「勝手に持ち場を離れるな!」

クレア姫は、看守を睨みつける。

「ばか!何言ってるの!テリムを助けなきゃ!」

クレア姫はテリムの元を離れようとしない。


ドスン!

その瞬間、鈍い音と共に、看守はクレア姫を,蹴りとばす。

「きゃあああっ!」

「クレア姫!」「お姫様!」

作業部屋に悲鳴が響きわたる。

「持ち場を離れるな!聞こえなかったのか?」

「連れて行け!」

息も絶え絶えなテリムは、看守たちに引きずられて、部屋から連れ出される。

「テリム!テリム!」「おばさん!」


「黙れ!よく聞け!反抗するか!反抗の意志をルーサー王に伝えるぞ!即座に処刑の命が下るだろう!」


看守が怒鳴る。

「すぐに持ち場に戻れ!」

成すすべなく、うなだれながら作業に戻る。

声を上げる事は許されないが、全員、涙で頬を濡らしている……

その後、テリムが戻ってくる事はなかった……



過酷な運命に襲われるクレア姫たち、囚われの一行。

この後、少し時間の針を戻します。

脱出に成功した、ファビアたち、北に向かった一行にも、同じく過酷な運命が待っていました。

これから、その話に少しお付き合いください。



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