第八章 虜囚の集団
喧騒と騒乱の一夜が明ける。
主を失ったエレニア。シャフタルの兵士たちは街を次々と占拠する。
女王ビアンカが築き上げたエレニア王国は、わずか一晩で崩れ去る。
「さっさと歩け!」
ファビアとの合流叶わず、逃げ遅れた王族たちは、鎖で拘束され、シャフタル帝国へ送還される。
その中には、クレア姫とセリーナ姫の姿も……
虜囚の集団は、やがて戦勝に沸く首都アルテリアへと連行される。
そして、大衆の好奇の目にさらされながら、大通りを通りぬけ、やがて街の外れにある古城に幽閉される。
敗者は、処刑されるか、一生を奴隷として暮らすか。
いずれにせよ、過酷な運命が待ち受ける。
シャフタル城では、盛大に戦勝の宴が開かれる。
その席にて、ルーサー王と、エルゲン将軍たちは、捕らえた元王族の処遇について話し合う。
「ビアンカ女王の血を引くものは、全員処刑する。従者たちは、奴隷として役務を全うさせる」
エルゲン将軍が進言する。
ビアンカ女王やファルカンとの死闘を経て、王族の強さを目の当たりにしたエルゲン将軍は、ここで血を絶やして、将来の憂いを断つべきだと進言する。
うなずくルーサー王。
既に戦勝の酒に、酔いが回っている。
適当にうなずいてるようにも見える。
プリンセスたちの運命、そんな適当な感じで決めちゃダメでしょ!!
その時、末席の従者から声があがる。
この従者の名は、ルドルフ。
以前、ルーサー王にエレニア王国の報告をした男だ。
「ルーサー王、細かい事でございますが…」
「おう、何なりと申せ」
上機嫌のルーサー王は、むしろ、何か楽しい話を望んでいるのだ!
時は少し遡り、エレニア王国、収穫祭の当日。
「ありがとう!どこからきたの?」
時間を稼ぐために急遽開かれた、パイ売り場での、ビアンカ女王の握手会。
視察で祭りに参加していた、ルドルフも、まさにビアンカ女王の神対応を受けた1人だった。
「アルテリアから、商売しに来ました」
「遠い所からようこそ!楽しんでいってね!」
ありし日のビアンカ女王は、一介の商人にすぎない、彼の手を固く握り、心ずくしの言葉をかける。
そう、この瞬間、ひそかにルドルフは、ビアンカ女王「推し」となる。
店でわちゃわちゃするクレア姫たちの事も、微笑ましく思っていた。
時は今に帰り、再び戦勝の宴。
戦勝を祝いつつも、密かに心を痛めていたルドルフ。
私がパイの話をしたおかげで……こんな事に……
そうだ!ルーサー王!お聞きください!
「ルーサー王!この度の勝利、たいへん見事でございました。」
「うむ」
上機嫌でうなずくルーサー王。
「私が以前申しあげた、甘い甘いパンプキンパイ、これでいつでも食べる事ができますぞ!」
「おお、そうだった、そうだった」
「私がエレニア王国に忍びこみ、命懸けで得た情報によりますと!あのパイは王族のみに伝わる、秘伝のタレで作られているのです!」
「それは、まことか?」
「その通りでございます!そして、あの秘伝の製法をうけつぐのが、今回捉えたクレア姫、セリーナ姫をはじめとした、王室の者どもなのです!」
「そ……そうだったのか!」
有能すぎる従者、ルドルフ。王の心を動かす!
なんか、すごい盛ってるし、微妙に間違ってる気がするけどね!
「王族の処刑はしない。しかし滅びた王族の末裔を野放しにはできない。城に幽閉し、奴隷として、役務を課す!」
こうして、亡国のプリンセスたちは処刑を逃れ、処遇が決まる。