第十三話 女王のたたずまい
「次は実戦演習だ!」
サイラスの号令が響く。
「ザガット!クレア姫に稽古をつけてやれ!」
「ははあっ!」
エレニア軍随一の槍使い、ザガット、長槍を手にしてクレア姫に相対する。
ザガット、半身の姿勢で腰を落とし、槍を構えながら叫ぶ。
「構えよ!」
クレア姫が、静かに流れるような所作で、背筋をピンと伸ばし、右足を一歩引いて半身に構え、そして槍を持つ両手を高く頭上に掲げる。
それは、頭上から今にも振り下ろさん、とばかりの……女王ビアンカが好んで使った、上段構え!
周りの兵たち、皆訓練の手を止めて、二人の対峙に見入る。
ずしりと鍛えた下半身に、凛とした構え。北風にブロンドの髪がなびく。その美しい姿に、皆息を飲む。
相対するザガットも、驚きを隠せない。
女王ビアンカ!それは、紛れもない、女王のたたずまい!
……その瞬間、クレア姫は記憶の中にいた。
遠い昔、女王ではなく、母親としても完璧だった…母ビアンカと遊んだ思い出。
頭上高くおもちゃの棒を構えて、ポカポカ叩き合う、そんな思い出。その記憶が、クレア姫の体を自然に動かす。
「行くぞ!」
いきなりの実戦演習!
ザガットが鋭い突きをクレア姫目掛けて放つ。
カイイン!
「はっ!」
短い掛け声と共に、頭上から槍を振り下ろす!
互いの穂先が交わり、乾いた音が響く。
シリウスも、演習の手を止めて、二人の模擬戦を見つめる。
「……え……めちゃすごいんだけど……」
クレア姫の威風堂々とした所作に、眼を奪われる。
「ていっ!」
クレア姫、低く短い掛け声とともに、今度はザガットの右横めがけて槍を振る!
「うおおっ!」
カキイイン!
ザガット、槍を立てて、すんでの所で防ぐ。
ギリギリギリ……
ザガットが立てた槍と、クレア姫が横から振った槍が交錯したまま、力比べとなる。
「ふんっ!」
そうなると、さすがにクレア姫は不利だ。
ザガット、クレア姫の槍を払いのけて、胸元に突きを放つ。
「そこまでっ!」
サイラスの号令。
ザガットが突いた槍の穂先が、クレア姫の胸元で止まる。
「さすがビアンカ女王の血筋!素晴らしい槍筋だ」
サイラス、ザガットが絶賛する。
「は……はわわわわ……」
戦いを終えたクレア姫、肩で息をしながら、ペタンと座り込む。
シリウスが駆け寄る。
「すごい!すごかった!即戦力じゃん!」
「あは……ありがと……」
そこにいた全員、絶対の女王ビアンカ、その果てしなく強い、その血筋を目の当たりにする。




