第七話 エレニア城への進軍
「エレニア軍、敗退!ファルカン将軍死す!」
エレニア城の門を固める、僅かな兵の元に、すり鉢から脱出した、血まみれの兵士がやってきて、叫び、やがて絶命する。
ファルカン将軍の息子、ファビアは、その叫び声を聞いて絶句する。
立ち尽くすファビアの元へ、女王ビアンカが現れる。
ビアンカは、ファビアの胸ぐらをむんずと掴み、顔を引き寄せる。
「偉大なるファルカン将軍の息子ファビア!女王として最期の命令だ!城に残るもの全員を連れて、北の裏門から逃れよ!」
「う……うあ……あ……」
「泣くな!泣いてる暇などない」
怒鳴る女王の頬にも、涙が光っている。
「いいか、全員、必ず守るのだ!エレニア王国を、守るのだ!」
エルゲン将軍の帝国軍が、城内に一気に流れ込む。
ファビアは、わずかな兵と共に、城に残る王族を裏門へ送り込む。
クレア姫、セリーナ姫も、手を取り合って、走る、走る、走る。
「おおおおっ!」
「きゃあああっ!」
喧騒入り混じりるエレニア城。
火の手が上がり始める。
城内は混乱の極み!
エレニアの女王は、僅かな護衛兵とともに、裏門に続く門前で仁王立ちとなる。
「ここは通さぬ!」
エルゲン将軍も、剣を振るいながら突進する。
「もう終わりだ!屈服せよ!命あってのものぞ!」
女王の手から、槍がたたき落とされる。
「決めているのだ!私は!決めているのだ!」
エルゲン将軍と兵士たちは、遂に女王を追いつめ、槍を胸元に突きつける。
「エレニアと共に生き、そして共に死ぬ!」
その瞬間、取り囲む兵士たちの槍が、女王の胸を貫く。
「エレニアは、永遠に、滅びぬ!」
床一面に広がる、鮮やかな赤。
エレニアの血が、流れ落ちる。
一瞬の静寂。悲鳴ひとつ上げず、誇り高きエレニアの女王散る!
「エレニア王国はシャフタル帝国の手に落ちた!1人も逃すな!」
エルゲン将軍は高らかに宣言し、追撃を命じる。
必死になって逃げる、ファビアたち王族の一行。
ようやく、北へ続く小道に分け入る。
この小さな道を知っているものは、エレニアでも僅かしかいない。
逃げ切った…
辿り着いたのは王族、兵士、従者合わせて、僅か30名ほど。
しかし、亡き女王の計らいで、従者たちの引く荷車には、生活に必要な物資、食料などが詰め込まれていた。
まるで、この結末を予想していたかのように……
ファビアは、一行にクレア姫とセリーナ姫の姿がない事に、激しく動揺する。
「クレア姫!セリーナ姫!」
「父ファルカン、女王ビアンカ、そして親愛なるプリンセス……」
「俺は……なにも、なにも、できなかったんだ…」
北へ続く細い道。
少年の慟哭が谷に響く。




