第十話 白樺の木の南で
クゥーン……クゥーン……
グラティア湖の、南側、草原近くのほとりで、ファビアとセリーナ姫、まったりと過ごす。大仕事を終えたカールは、ひたすらセリーナ姫の腕の中で甘える。
ファビアが語りかける。
「セリーナ姫、ほんっとに、えらいよな。」
「え?」
「クレア姫のこととか、ほんっとに真剣に考えてさ。俺なんか、いつも自分のことでいっぱいいっぱいだよ。」
「……いや、そんな事ないよ……!ファビアってさ、いつも、みんなのために頑張って、それでいっぱいいっぱいなんだよ!」
「……そうかな……」
「ファビアがいなかったら、ぜったい、私たちはここまでこれなかった!もっと、自信持っていいから!」
「……ありがとう!」
(そういえば、さっき同じような事をシリウスに話した気がする……言われると、嬉しい!)
ファビアとセリーナ姫、他愛もない、でもお互いを思いやる、暖かい会話を紡ぐ。
少しの沈黙。
…………
「お姉さま……うまくいってるかな……」
「大丈夫だよ、あいつらは。」
「でも……うまくいったら、うれしいけど、なんか少し寂しいかも。」
「そうだな、シリウスとはずっと一緒だったから、おれも、なんか寂しいな。」
……
はっとした表情で、二人は、お互いの顔を見つめあう。
ファビアがおどけた口調で尋ねる。
「じゃあさ!シリウスがあんまし遊んでくれなくなったら、いっしょに遊ぼうぜ!」
「うん、私も!……なんだか、私たち、失恋したみたいね!」
「はははは!」
「クス、クス、クス」
その時!カールのくりっとした瞳がキラリと光る(ように見えた)。
キャン!キャン!キャン!
カール、セリーナ姫の腕から飛び出して、道の脇に広がる湿地帯に分け入ろうとする。
「あっ、待って!」
ズブッッ!
駆け寄るセリーナ姫、勢い余って湿地帯に足を踏み込む。ずぶりと、右足が飲み込まれ、大きくバランスを崩す。
「きゃっ!」
「あぶない!」
ファビア、思わずセリーナ姫を後ろから抱きしめて、よろけた体を支える!
「……!!……」
「……」
抱きしめた姿勢のまま、固まる二人。
ファビア、背中越しにセリーナ姫の暖かい体温を感じる。胸が高鳴る。
「だ……だいじょう……ぶ……?」
「……あは……ありがと……」
……
「あ……えと、もう大丈夫だから、、」
「あ!あっ!ごめん!」
ファビア、慌てて体を離す。
クーン!クゥーン!
いつの間にか戻ってきたカール、ファビアの足元でじゃれる。
……
しばしの沈黙の後、セリーナ姫が声を掛ける。
「……そろそろ、戻ろっか!」
二人とも、無言のまま、しずしずと村への道を進んでいく。
村の入り口、別れ際。
セリーナ姫、ニコリと笑う。
「いっしょに遊ぶ約束、忘れないでね!」
「おう!」
明るく言葉を交わして、お互い帰路につく。




