第九話 白樺の木の下で3
「きゃはははは!シリウス、あの時と、変わらないわね!」
クレア姫、ケタケタと笑う。
シリウス、顔を真っ赤にして、うつむく。
笑顔が、わだかまりを洗い流していく。それは、カールがかけた、魔法かもしれない!
「じゃあ、わたし、行くね!」
きびすを返して、セリーナ姫たちを追おうとする。
(違う!これは魔法なんかじゃない!ちゃんと……ちゃんと、言わなきゃ!)
勇気を振り絞って、声を絞り出す。
「クレア姫!」
「……!え?」
駆けようとしたクレア姫の足が止まる。
シリウス、深く頭を、下げる。
「ごめん!……すごく……ごめん!」
クレア姫、意外な表情。
「……」
「ひどい事いって、ごめん!」
「あは……もう、いいわよ、そんなこと……」
クレア姫、うつむいてボソリと話す。
「やっぱ、わたしなんかがいたら、迷惑かな……って。」
……シリウス、頭のなかで、次の言葉を必死で考える。落ち着け!慌てると、また変な事言ってしまう!
「……クレア姫……違うんだ。おれが止めたのは……そんな理由じゃない!」
クレア姫、首をわずかに傾ける。
「……?」
「………ベルモントでの戦い……本当に、死闘だった。何度も、死ぬかと思った!そんな危ない事、ぜったい、させられない!させちゃいけない!……危ない事から、守らなきゃ、いけない!って、必死だったんだ。」
クレア姫は戸惑いの表情。
「………え、えっ、どうして、そんな……」
「でもそれは、間違ってたんだ!おれは…おれがしなきゃいけない事は、守る事じゃない!」
……
少しの沈黙。シリウス、意を決する。
「好きな人を、支えることなんだ!」
「……え……ええ……と……」
「おれ……クレア姫の……特別な、支える人に、なりたい……」
急に恥ずかしくなったのか、消えいるような声。でも、はっきりと、強く、気持ちを伝える。
……
しばしの沈黙、二人とも、うつむいたまま固まる。
ようやく顔を上げて、二人、向き合う。
「……ありがと……わたし……よくわかんない、けど……なんか、ちょびっと、嬉しいかも……」
シリウスの強い思いは、クレア姫の心を動かす。
「あ……ええと……そろそろ行かなきゃ!」
去りぎわに、ニコリと笑顔。
「ありがとうシリウス!またあそぼっ!」
そう言い残して、村へと駆けていく。
「ふああああ……」
地面にへたり込んで、放心状態のシリウス。
うまくいったのか……??
ガサガサ!
その時、遊歩道の反対側に生い茂る葦がわずかに動く。中に隠れているのは、ユイノと、従者メアリー!
メアリーは村一番の情報通。彼女にはどんな隠し事もできない。
二人はヒソヒソと耳打ちする。
「シリウス、思ったよりやるわね……」
「これは……成功じゃない?」
「そ……そうね……いけそうね!」
シリウスとクレア姫のやりとりが、村の女子全員に、光より速い速度で伝わる事を、二人は知らない……




