第四話 シベリアで挟まれる
その晩…訓練と仕事を終えた一行が、村唯一の酒場、シベリアに集う。
「いらっしゃい!」
看板娘、ユイノの明るい声が響く。
サイラス、ファビアたちもやってきて、賑やかに杯を交わす。その一方、シリウスは…
一人皆のテーブルから離れ、カウンターで塞ぎ込んでいる。そんなシリウスを見かねて、ファビアがカウンターの隣に座って、話しかける。
「あんなに取り乱すなんて、珍しいよな。そうだ……!ベルモントの販売所でクレア姫を見た時……そん時以来だ!」
シリウスは目を真っ赤にはらして、うつむく。
「……」
ユイノが口を挟む。
「シリウス、クレア姫にひっどい事いったらしいね!」
狭いビアンカ村、女子の口コミは瞬く間に広がる。
「そう、なんだ……おれは…なんて…だめなんだ……!」
ファビアはカウンター越しのユイノに向かってヒソヒソと話しかける。
「こいつ、なぜかクレア姫がからむと、グダグダなんだよな……どうしちゃったんだよ。」
「ばかね、恋してるからよ!」
「……えええっ!」
「ていうか、何で気付かないのよ!親友でしょ?」
カランカラン!
その時、呼び鈴の音を響かせながら、シベリアのドアが開き、客がやってくる。
「ユイノ!元気にしてる?」
「きゃああっ!セリーナ姫!めっずらしい!」
久しぶりの来客に、ユイノの顔が綻ぶ。
セリーナ姫はカウンターのシリウスたちを見つけ。ツカツカと近づいてシリウスの隣に腰掛ける。
「シリウス、クレア姫にものすごくひっどい事、いったらしいわね!」
(……そのセリフ、いま聞いたばかりです……)
ファビアとセリーナに挟まれて、うなだれるシリウス。
ファビアがシリウスの肩をポンと叩く。
「ていうかさ!お前、クレア姫のこと、好きなの?」
ファビアも鈍感な男。いきなり核心を突いた質問。
シリウスは顔を真っ赤にして、立ち上がって叫ぶ。
「いやいやいや、ちがう、ちがう!ぜんっぜん、そんなんじゃない!!」
ユイノ、カウンターごしにセリーナ姫とヒソヒソつぶやく。
(めっちゃ、好きみたいね……)
(これは、困りましたね……)
「と、とりあえず落ち着きましょう!」
セリーナ姫が制する。
ファビアが話しかける。
「と……とりあえず、さあ、この前の事は謝れよな!そもそも、何であんなにきつく当たるんだよ…」
……
……
ボソリ
「……すき、なんだ……」
シリウスがボソボソと語る。
「………おれは、たぶん、クレア姫のことが……」
……
(知ってます!)(知ってるわよ)
セリーナ姫とユイノ、心の中で同時に突っ込む。
「……だから、ぜったい、ぜったい危いこと、させられない、って思ったんだ……」
シリウスの目に涙がにじむ。
「それで、どうしても止めたくて、ついあんな言葉を……」
セリーナ姫、シリウスに諭す。
「実は、私も相談されたの。サイラスの訓練に参加したい、って。」
「……!」
「…もちろん心配だけど、だけど、お姉さまは、すごく感謝してるの。ファビア、サイラス……もちろん、シリウス、あなたにも!……死の寸前まで追いやられた、あの恐怖。そして、救われた時の、その瞬間に。」
セリーナ姫、さらに強い言葉を紡ぐ。
「その感謝に、報いたい!その決意を、なんでシリウスが止めるの?本当に好きなら、おねえちゃんの、やりたいこと、どうして応援してあげないのよ!!」
その目に、じわりと涙が浮かぶ。
ユイノが言葉を重ねる。
「そうよ!同じ軍隊なんだから……危険だったら、あなたが守ればいいんじゃない?」
「……!」
ファビアの目からウロコが落ちる。
「ありがとう、セリーナ姫、ユイノ、ファビア。おれは、この先も、ずっと、クレア姫を守りたい……もう、手遅れかもしれないけど……」
ユイノがまとめる。
「とにかく、クレア姫がアンタの事どう思ってるかわかんないけど、どっかで自分の気持ちは、ちゃんと伝えなよ!」
シリウス、深くうなずく。
こうして、ビアンカ村の夜は更けてゆく。




