第五十四話 ファーゴの宴
夜が明けて、ファーゴ村での一日が始まる。
突然現れた兵士、道化師、プリンセス。何とも不思議な集団!住民たちも不思議そうな眼を向けるが、すぐに彼らは寒村での日常に戻ってゆく。
静かに一日を過ごし、傷を癒す。
そして再び夜がやってくる。
拠点には、あらかじめ生活に必要な物資が運び込まれている。そう、サイラスに絶対必要なもの、お酒も!
包帯でぐるぐる巻きのサイラス、いきなりグラスになみなみと酒を注いで、高らかにかかげる。
「みんな!今日まで……よくぞ……」
いきなり涙ぐんで、言葉に詰まる。まだ一滴も飲んでないのに!
「うおおおおっ!」
「おおおっ!」
一同、すっごい適当な感じで乾杯する!
特訓の後に毎日集って、何でも話した、あの酒場のように皆で盛り上がる。このチームワークが、奇跡を起こしたのだ!
「なんか……すごいコトになってきたわね……」
「お姉さま……」
クレア姫たちは、小屋の端っこに固まって、ちびちびとジュースに口をつける。
宴もたけなわ、シリウスがふと思い出したように、ファビアに尋ねる。
「そういえば、お前、サイラスを呼びに行っただけだろ?なんであんなに、ボロボロになったんだ?」
「う……うーんと……」
ファビアも、サイラスも微妙に言葉を濁らせる。
(言えねえよ……エルゲン将軍にコテンパンにやられたとか……)
「昨日、やばかった……、とか言ってたよな!面白そう!教えてくれよ。」
その時!杯を掲げてカルロスが立ち上がる。
「その通り!ものすごい、ドラマがありましたぞ!」
得意げに正門前の戦いを語り始める。
「いやいや……それはかんべんして……」
ファビアの声、皆の歓声にかき消される。
「待ってました!カルロス!」
端っこに座るクレア姫たちも、なんか身を乗り出して耳を立てる。
(いや、その話だけは……聞いてほしくない…)
カルロスは雄弁に語る。シャフタルの将軍、エルゲンの名に一同どよめく。そして、その語りはいよいよ佳境に。
「すげえ!エルゲンを打ち破ったんだ!」
皆かたずを飲んで、カルロスの言葉を聞く。
……サイラス、そしてファビアも……エルゲン将軍にさくっと倒され……エレニア軍の窮地を救ったのはティグレ!!
カルロスは、盟友ティグレの武勇伝を得意気に語る。
「おおおおっ、すげえっ!」
一同、あまりにも意外な展開に大盛りあがり!
「ティグレ!ティグレ!」
なんかバツの悪い表情のファビア。サイラスは……もう酔っ払ってて、よくわかんない……。シリウス、ファビアの肩をポンと叩いて、話しかける。
「結局さあ……ファルカンを超えたのは、ティグレだけってことかよ!」
「ぷぷぷ……」
ファビアも、思わず吹き出す。
「ははははっ!違いねえ!」
「新生エレニアの将軍は、ティグレで決まりだな!」
「わははははっっ!」
「ティグレ将軍!バンザイ!」
クス、クス、クス……!
小屋が笑いに包まれる。クレア姫たちもつられて笑う。みんな笑顔、笑顔、笑顔。
エレニア王国を追われたクレア姫たち、それ以来、笑顔になったのはわずか一回、三年目の大祭。
あの時は、五時に、はかなく解ける魔法だった。
でも今は違う。永遠に、永遠に解けない、幸せの魔法。クレア姫たちは、笑顔の中で、ようやく手にした自由をかみしめる。
――――
ちなみにその頃、宴の主役ティグレは……
厩舎の横で、ボリボリ頭をかいておりました……!
遂にプリンセス奪還を果たしたエレニアの民。
これから王国の再生に向けて進み出します。
物語はいよいよ終盤、あと少しお付き合いください。




