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第五十ニ話 生還のプリンセス

その頃、クレア姫たちを乗せたシリウス一行は、木が生い茂る街道を、ひたすら北めがけて駆ける。クレア姫は馬上でシリウスの背中に身を委ねる。


シリウスは、背中越しに姫の息遣いを感じる。ベルモント城で一瞬会った時には、果てしなく遠く感じた。でも、それもおしまい。姫たち、みんな、ここにいる!


首都アルテリアから馬で走って、はや半日が過ぎ、日が傾き始める。シリウスたち一行は、数件の家屋が立ち並ぶだけの、小さな村に辿り着く。


ここはシャフタル帝国、北の果て、ファーゴ村。この先から、ユピテル山脈へと続く道がある。一行は静まり返る村にゆっくりと馬を進める。そして、拠点として確保していた小屋の前で、ようやく馬から降りる。


シリウスは、クレア姫をそっと馬からおろして、ささやく。

「ここまでくれば、もう安全だ。少し休もう。」


「………………」

セリーナ姫や、他の従者たちも、馬を降りて、小屋に集う。

「………………」

プルプル……

クレア姫は肩を震わせる。その両目から涙がじわりと滲み出る。


「ばかばかっ!ばかあっ!」

クレア姫、シリウスの胸をポカポカ叩く。


「ううああん、うああん…シリウス!遅いよお、来るの遅いよお!ずーっと、ずっと、まってたのに!」


シリウスはかける言葉もみつからず、ただうつむく。クレア姫、涙でくしゃくしゃになりながら、子供の頃のように、かんしゃくを起こして泣きじゃくる。


「うえ、うえええん!」

セリーナ姫が駆け寄って、クレア姫におもいっきり抱きつく。

「おねえちゃん!おねえちゃん〜!」

「う…うう、うああ…」

「うあああん!うわああん!」

あふれだす、すべての感情。


クレア姫は、セリーナ姫を固く抱きしめて、涙声でささやく。

「すっごい、つらかった!、本当は……なんども、死んじゃいたいって思った……。でも、みんなが、みんなが支えてくれた……。みんなが……なんども、なんども……」

「おねえちゃん……グス……わたしも……わたしも、いっしょ……だから。」

「ぐす……もう、なに言ったらいいか……わかんないよお……」


侍女たちも、折り重なるように抱き合って、涙ながらの言葉を紡ぐ。

「クレア姫!よく……よく耐えて……」

「よかった……ほんとうに……よかった……」

「ありがとう……みんな……、ありがとう……」



皆、涙、涙、涙

長い地獄からの生還をかみしめる、エレニアのプリンセスたち。


みんなで輪になって、いつまでも、語りあう。

失われた、長い、長い時を取りもどすかのように。




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