第五話 帝国軍の出陣
冬が過ぎ、エレニアは春を迎える。
エルゲン将軍率いる帝国軍は、群青色の甲冑に身を包み、総勢5万人もの大軍で、エレニアに向けて進軍する。
収穫祭以来、帝国の動きを監視していた、エレニアの将軍ファルカンも、すぐにその動きを察知する。
女王ビアンカの元に届く伝令に、悲壮感が漂う。
「ついにこの日が、きたか……ファルカン!全軍を持ってシャフタル帝国軍を阻止せよ!」
「お任せください!」
ファルカン将軍は、すぐさま、王国軍を城下の草原に結集させる。
帝国軍は、国境を守るエレニア兵を瞬く間に蹴散らし、城下の草原、南側に5万の兵を結集させる。
この草原を駆け上がれば、その先にはすぐにエレニア城。その行手に、エレニア軍が陣取る。
ファルカン将軍率いる王国軍は総勢わずか8千人。しかし、エレニアを愛する王国軍の士気は高く、怯む者はいない。
エレニア城の前に広がる草原は、一見なだらかな丘が続くだけに見えるが……
そこは、大きななすり鉢状になっており、城に向かうには一回丘を駆け下り、そのあと駆け登る必要があった。
その、なんでもない、しかし特徴的な地形は、ここでしか通用しない、独特の戦術を生み出す。
いにしえの、伝統の戦法。
ファルカン将軍は、それに賭ける。
「全軍進撃せよ!エレニア城は目の前だ!」
エルゲン将軍が叫び、大軍が一斉に坂を駆け降りる。
その瞬間!迎え撃つために進軍する!
……と思われたファルカン将軍は、両腕を大きく左右に広げる。
「全軍、両翼に散れ!」
エレニア兵は、突然横を向いて、左右に大きく展開。
すり鉢の山から帝国軍を囲む位置に,すばやく移動する。
何度も訓練を繰り返した、練度の高い行軍だ。
帝国軍先頭の騎馬兵が、すり鉢の底に辿り着き、丘を登ろうとする時……
ここに、わずかだが、崖のように急峻な箇所がある。
これが天然の要塞として立ち塞がり、隊列が一瞬乱れる。
特に騎馬兵。落ち着けば、普通に通れるルートはあるのだが、5万人もの兵士が流れ込んでくるため、たちまちすり鉢の底は兵士の渋滞を起こす。
そして、丘を登るため隊列が横に広がり始めた瞬間!
「全軍、突撃せよ!」
ファルカンが雄叫びを上げながら、坂を,駆け下りる。
すり鉢を取り巻くエレニア軍が、すり鉢の底で渋滞する帝国軍に、一斉に、四方八方から襲いかかる。
「うおおおおおおっ!」
エレニア軍は、混乱に陥る帝国軍をなぎ倒しながら、一斉に坂を駆け降りる。
帝国軍の兵士たちは、統率を失い、徐々に後退していく。
完全にエレニア軍が押している!
奇跡が,起きるのか!?




