第四十九話 進撃!
正門が開き、カルロスを先頭にエレニアの祭列がゆっくり城内に侵入する。
かぼちゃ三段の巨大な山車が、楽隊の奏でる勇壮な行進曲と共に、正門を通り抜け、正面の広場に進み出す。
進む、進む、進む。
物珍しい一行に、兵士が集まる。
カルロスが叫ぶ。
「皆さま、お集まりください。シャフタル随一の大仕掛けでございます!」
ガタン!
その瞬間、山車の扉が開かれ、サイラスを先頭に数人のエレニア兵が兵士に襲いかかる。
「我はエレニアの副将サイラス!亡国のプリンセスを奪還する!!」
シャフタルの兵士は突然の出来事に呆然とする。
ファビアもサイラスに続く。
「エレニア軍、全軍進撃っ!」
「おおおうっ!!」
道化師たちも、山車の中に隠された武器を取り、一斉に襲いかかる。
瞬く間に広場は血で染まる。わずか三十人だが、それは、失われた勇猛なエレニア軍の鮮やかな復活。
山車周辺の兵士を一気に倒した後、サイラスが両手を広げて大声で指示を出す。
「両翼展開!」
エレニアの兵士と道化師たちは目にも止まらぬ速さで三部隊に分かれ、整列する。騒ぎを聞きつけて、城のあちこちからシャフタル兵がなだれ込んでくる。
サイラス、剣を振り回しながら、両翼のファビアとシリウスに向かって叫ぶ。
「俺はここで敵を迎え撃つ!お前たちは全速力で裏庭に抜けろ!」
「進めええっ!進めっ!!裏へ抜けるぞ!」
「絞首台に向かえ!急げっ!」
ファビアの部隊は城の左手、裏へ抜ける通路めがけて全速力で駆ける。右翼シリウスも、一斉に右側へ駆ける。
「裏へ通すな!食い止めろ!」
シャフタルの城兵が慌てて叫ぶが、ファビア達のスピードに追いつける敵兵はいない。取り残された敵兵は、サイラス率いる中央の部隊が掃討していく。
何度も、あらゆる事態を想定して繰り返した戦術訓練。処刑が迫る不測の事態でも、整然と流れるように各部隊が動く。
そしてファビアが裏へ駆ける、まさにその瞬間!
絞首台の上で……黒装束の兵士は、一列に並んだ姫たちに目隠しをする。全身が、恐怖でガタガタと震える。
隊長らしき兵士が片手を上げる。姫たちの後ろについた兵士たちが、ロープに手を掛ける。
(いやだ!ほこりたかく、とか、どうでもいい!しにたくない!しにたくない!)
「いやあああ!たすけて!」
じっと耐えていたクレア姫……大声で叫ぶ!
……
「うおおおおおおっ!!」
その瞬間!立ち登る砂煙と共に、雄叫びを上げながらファビア率いる左翼が、突如、姿をあらわす!
処刑台の兵士がざわめく。
隊長が慌てて階段を駆け下り、命令する。
「敵襲だ!迎え撃て!」
「全員、突進!プリンセスを、奪還するっ!」
「おおおおうっ!」
左翼ファビア、最速で絞首台に辿り着く。
黒装束の兵士が応戦し、激しい戦闘に!
「進め!進め!」
キイイン!
「うああっっ!」
悲鳴と怒号が交錯する。敵をなぎ倒しながら進むファビア、絞首台の手前に5人、段上に5人の女性が目に入る。クレア姫!セリーナ姫!従者たちも全員無事だ!
「おりゃああっ!」
カキーン!カキーン!
剣がこすれ合う、甲高い音があちこちからわき上がる。ファビア達は必死に剣を振るうが、総勢20名ほどの敵兵に対して左翼はわずか8名。全員健在だが、押し寄せる敵兵に絞首台まで辿り着けない。
「じゃまだ!どけええっ!」
「絶対通すな!」
ファビアの雄叫びと指揮官の怒号入り混じる、混乱の戦場。徐々に戦線が後退していく。辿り着けないのか……
「進めええっ!」
その時!右翼のシリウスが絞首台の北側めがけて疾走する。敵兵は全員南側でファビアと応戦している。裏を突けるぞ!
シリウスは後方から敵兵に遅いかかる。
「倒せええっ!」
黒装束の兵士は統率を失って、総崩れとなる。敵を追い払い、遂に絞首台へ!
従者たちの拘束を解き、急いで段上に駆け上がる。
「クレア姫!」
目隠しをはぎ取り、剣で縄を引きちぎる。
突然、視界が開け……まばゆいばかりの光が、クレア姫たちの目に染み渡る。
セリーナ姫が叫ぶ。
「シリウス!」
ファビアもようやく段上に辿り着く。
「ファビア!……」
「ごめん!待たせた!」
想像を絶する恐怖から、一気に解放される。膝から崩れ落ちる姫たちを、ファビアたちが支える。
「プリンセス奪還!全員、奪還!」
「おおおおおっ!」
ファビアは段上で叫んだ後、すぐにクレア姫たちを絞首台の北側に集め、周囲を取り囲んで守りながら、裏門を目指す。




