第四十五話 決起
宴もたけなわに、いよいよ最後の一杯がせまる。
サイラスが、立ち上がって皆に話し出す。
「今日まで、本当によくついてきてくれた。本当に感謝する。」
短い挨拶と共に、サイラスは一礼する。
「おいおい、珍しく今日は酔ってないのか?」
やじが飛ぶ。
「はははっ、当たり前だろ!」
豪快に笑い飛ばす。
そして、ファビアが立ち上がる。
「俺たちは、今日まで精一杯やってきた!努力は絶対報われる!明日は、絶対、成功する!」
「おおおっ!!」
一同、決戦を前にして盛り上がる!
すると、今度はシリウスが立ち上がる。
そして、神妙な顔つきで皆に語りかける。
「実は……みんなにまだ言ってない、すごく大事な事がある。」
その真剣な顔つきに、皆息をのんでシリウスの言葉を聞く。
「前にも話したが、俺は、アルテリアの取引所で、一瞬だけクレア姫の姿を見たんだ。」
……
「クレア姫は……クレア姫は……」
……
一瞬、間が開いた後、声を張り上げる。
「めっちゃ、美人だぞ!!」
「うおおおおおおっ!」
「エレニアのプリンセス!(美人の)クレア姫!」
「絶対に、(美人の)姫を助け出すぞ!」
ものすごい盛り上がり!
でもまあ、そうだよね。囚われの美しいプリンセスを奪還する!このシチュエーションで、燃えない男はいないっ!
決戦に向けて、プリンセス奪還のために、復活のエレニア軍、一致団結する!
そして、興奮に包まれた一行は、明日に備えて散っていく。ファビアとシリウスも、この数ヶ月を過ごした拠点に戻り、アルテリア最後の一夜を過ごす。
計画に成功すれば、そのままビアンカ村に通じる道に抜ける。ファビア達は、あらかじめファーゴ村という、その道中にある小さな集落に拠点を作っており、旅に必要な物資は、そこに既に運び込んである。
そのため、ここには明日使う武器や防具、最低限の物しかない。
ファビアとシリウスは、がらんとした部屋のテーブルに向かい合って座り、語り合う。
シリウスがまずファビアの目を見つめて、しみじみと語る。
「いよいよ明日だな。今まで長かった……」
「そうだな……」
「俺は主席で天才だ。ここまでこれたのは、ほぼ俺のおかげと言っていい。」
シリウスが胸を張る。
「うぐ……なんかムカつくけど反論できない……」
口惜しそうに目を伏せるファビア。
「でもファビア、決戦の前にどうしても言っておきたかった。そんな天才の俺でも、何度も、不安やふがいなさ、色んな感情で押し潰されそうになったんだ。」
……
さらにシリウスは続ける。
「そんな時……そんな時、いつも、お前の適当で楽観的な考えに……ああ、そんな思い詰めなくてもいいんだ、なんとかなる……って、すごく気持ちが軽くなったんだ!」
「シリウス……」
「本当にありがとう!ファビア!」
「お……おおう……褒められてるのか、けなされてるのかよくわからんが……俺も何か、いろいろ感謝してるぞ!」
そしてファビアも、静かに言葉を紡ぐ。
「この数ヶ月、特にサイラスが来てから……俺はずっと、父ファルカンの幻想と闘ってる気がしてたんだ。」
……
「決して超えられない、王国最強の将軍。でも超えなければいけない。超えなければ勝利はない。父親でさえ勝てなかった、シャフタルに!」
……
「そんな事、できっこない!無理だ!無理なんだよ!」
……
「でも、俺一人じゃない。シリウスと仲間全員で、ファルカンを越える!」
シリウスが応える。
「……そんな事気にしてたのかよ!全員でファルカンを超えてもいいし、超えなくてもいいんだぜ。」
「……?」
ファビアは意表を突かれたように目を見開く。
シリウスがさらに続ける。
「プリンセスを奪還して、ひたすら逃げる。それで十分じゃね?ファルカンを超えたかどうかは、その後落ち着いてから考えようぜ!」
ファビアの顔に思わず笑みがこぼれる。
「ははははっ!そりゃそうだ!」
……
そしてファビアも、感情を込めてシリウスに伝える。、
「すごく楽になった!ありがとう、シリウス。でも最後には、俺は超えてみせる!姫たちを奪還し、父ファルカンを超える!」
そして二人は改めて、固い握手を交わす。
エレニアの民がここまで辿り着いた一番の原因、二人の固い絆!
そして、最後の大仕事に臨む!
大祭まで、あと一日……!




