第四十四話 前夜祭
さらに日が過ぎ、いよいよシャフタルの大祭が明日に迫る。
河原で行う、最後の戦術練習。
今日は特別な布陣。河原に白線で描かれた門に並ぶのは、ファビア、シリウスを中心とした両翼の若手部隊。
その正面に構えるのは、サイラスを中心にエレニア兵で固めた布陣。
サイラスが吠える。
「今日は小細工なしだ!全員、進撃せよ!」
一斉にサイラス部隊が突進する。
ファビアも応える。
「受けて立つぞ!進めえっ!」
両軍が模擬剣を振り上げ、激突する。
「おおおおっ!」
「一気に攻めろ!」
立ち登る砂煙。雄叫びと剣が交錯する、乾いた剣が響き渡る。
「うあああっ!」
ある者は剣を落とされ、またある者は体を強く打ち付けられ、離脱していく。
ファビアは、剣を振りながら、サイラスの姿を探す。
正面の敵を振り払った時!倒れる兵の後ろからサイラスが吠えながら突進してくる。
「偉大なるファルカンの息子よ!一番弟子の俺を超えてみよ!」
カアァァン!
ファルカンが剣を振り降ろす。ファビア、間一髪で受ける。
「うおおおっ!おれは!……俺は」
ファビアは渾身の力で剣を弾き返す。
「超えてみせる!」
カンッ!カン!カン!
すぐさま体制を整えて切り掛かる。剣が交錯する。
「うおおおおっ!」
激しい撃ち合い。そのうちに、周りの兵士たちはほとんど退場し、立ってるのはサイラスとファビア二人……!
互いに一呼吸置いたあと、お互いに突進する!
「とおおっ!」「うりゃあああっ!」
サイラス、ファビアの剣が交錯する!
ガキキッ!
その瞬間、いつもと違う鈍い音が響く。
二人の剣は、交わった点を起点に、ポッキリと折れる!
荒い息に肩を震わせ、二人ともへたり込む。
「ハア、ハア、ハア、――よくやったな、ファビア。だが残念ながら、二人とも剣を折ったからな。この勝負、年上の俺の勝ちだ!」
「ちょ、ちょ、ちょ!そんなルール知らねえよ!」
負けず嫌いなサイラス、大人げない……
訓練の日々を経て、ファビアたちの動きは見違えるように鋭く進化する。
これ以上ないくらい、様々なパターンでの戦術訓練も繰り返した。もはや思い残すことはない。
いざ決戦へ!
訓練を終えた一行は、祭りの直前、高揚感満ちた大通りを進んで、いつもの酒屋に向かう。
大通りのあちこちには、カラフルな山車が立ち並び、明日の出番ー待つ。山車の周りには子供が群がり、祭列の人たちはお菓子を配って回る。
西地区、拠点近くの路地には、巨大なかぼちゃの山車。
カルロスと楽団達が入念な手入れをしている。
子供たちがかぼちゃの山車を、微妙に避けてるように見えるのは、気のせいかな……
「カルロス!準備はできたか?」
「もちろんですぞ!」
そしてその晩、全員が酒場に集まる。明日には、すべてが決まる。無事に姫たちを奪取して、ビアンカ村に凱旋するか、それとも……
どちらにせよ、ここで、全員で杯を交わすのは最後になる。皆ひとしきり、今までの長い道のりを振り返って盛り上がる。




