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第四十三話 遠雷

寒さが和らぎ、春の訪れを感じるころ……


アルテリアの町中でも、至る所で祭りに向けての準備が進む。大通りの至る所に立ち並ぶ、建設中の山車も、徐々にその色とりどりの姿を見せ始める。


西地区、道化師たちの暮らす地区に通じる大通りでは、カルロスたちがコツコツ作り上げた山車が、姿を表し始める。


それはまるで、おとぎ話に出てくるような、かぼちゃの形をした、おっきな山車!

しかも、そのかぼちゃを3つ上に重ねた、なかなかインパクトある造形。


一番上の、かぼちゃの前面には、くりんとした、おっきな丸い目と、にっこり笑顔、口の端っこには、いたずらっぽくペロンと出した舌。

上から二番目のかぼちゃの前面は、トロンとした眼で、なんか眠そうな顔。

三番目、一番下のかぼちゃは、目を閉じて、完全に寝てる!


カルロスが得意気に解説する。

「これは、エレニアの民が、徐々に目覚めて、最後にプリンセスと共に復興する、という壮大な物語を表してるのです!」


「…………」


「さらに、この山車には、特別な魔法をかけておりますぞ!」


確かに、正門から入れて、中に兵士を潜ませる、という条件は満たしてるけど……

よくわかんない……


気を取り直して……

シリウスが提案する。

「そうだ、そうだ、山車は馬に引かせよう。そのまま、脱出する時に使えるぞ!」

思ったより大きいので、隊列の構成も合わせて微調整する。


その晩、雷鳴とともに、シトシトと雨が降り始める。

ファビアとシリウスは、拠点の小屋で雨を眺めながら回想する。

最初の拠点で遭遇した荒天には遥かに及ばないが、ここアルテリアでも、雷雨は春の訪れを告げる。


小さなテーブルを挟んで、シリウスがつぶやく。

「いよいよ、春が来るな。」

ファビアも答える。


「ああ、最初の拠点を思い出す……。あの時の俺は、女王ビアンカ、父ファルカン、クレア姫たち、全て失って……何も出来なかった、無力感で一杯だった。」

「何か、すぐ泣いてたよな。」

「余計な事言うなよ……でも、あの頃から、俺は何も変わってないんだ。何も…何も成し遂げていない!ただ、仲間を犠牲にしただけで!」


ファビアは言葉を絞り出す。


「本当は、不安でたまらない。でも、今度こそ……今度こそ……」


「今さら何言ってんだよ!うまくいくに決まってるだろ!……自分と、仲間を信じろよ!」

シリウス、自分に言い聞かせるように、声を張り上げる。


ゴロゴロゴロ……

その強い意志に押し出されるように、雷鳴は徐々に遠くなり、アルテリアに、決戦の春が来る。



大祭まで、残り10日……!




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