第四章 冬枯れの旅団
実りの秋が過ぎ、エレニアは冬を迎える。
蓄えは豊富で、冬でも民が飢える事はない。
「ううう……さむいよお」
祭りはとうの昔におわったが、広場の片隅に、まだ王室のかぼちゃ屋はなぜか店を構えていた。
姉妹も、従者たちに混じって、時折パイを焼き、北風吹き荒ぶ中、店に立つ。
クレア姫とセリーナ姫は、まだまだ遊びたい盛り。
「うう〜っ、どうして祭りも終わったのに、こんなにはたらかなきゃいけないのよ〜」
しっかり者のセリーナ姫は、不満たらたらのクレア姫をなだめる。
「お姉様……母上から聞いたのですが……なんでも、"こっかよさん"っていうのが足りなくて、パイをたくさん売らないといけないんだって」
「それ、いくつくらい売ればいいの?」
「ええと……五万個、くらい?」
「ええ〜っ!そんなの無理、無理!」
女王ビアンカの冗談を間に受けた、トンチンカンなやり取りに、周りの従者たちは思わず吹き出す。
「クレア姫〜、セリーナ姫〜」
そんな時、か細い声で姫を呼ぶ声。
振り返ると、将軍ファルカンの息子、ファビアが立っていて、姫たちに話しかける。
ファビアと姉妹は幼なじみ、なんでも話せる仲だ。
「え……っと、今日、父上がいなくて、1人で国境を見回ってたら、この人たちに出会って……」
ファビアの後ろには……20人くらい、だろうか。
ぼろぼろの服をまとい、寒さに身を震わせる一団がいた。
「ど……どうしたらいいかな……??」
ファビアは頼りなさ気な、か細い声で尋ねる。
「もしかして……冬枯れの旅団!」
セリーナ姫が,思い出したようにつぶやく。
エレニアは東西を大国に囲まれた立地。
南北は、険しい山が立ち並び、人が足を踏み入れるのは容易ではない。
しかし、はるか北めがけて、一本の細い道があった。
そして、その先には、わずかながら、人が住む里もあるという。
北国の生活は厳しく、特に一面が凍てつく冬は、常に飢えの危機にさらされる。
そして、冬を越せないと判断した時、里の一行は命懸けで冬の道を下り、エレニア王国にやってくる。
彼らはエレニアの民ではないが、慈悲深い女王ビアンカは、常に彼らの事を気にかけていた。
そして、彼らを「冬枯れの旅団」と呼び、冬を越せるだけの施しを与えるのだった。
女王ビアンカは、その話を繰り返し娘たちにも聞かせていて、それを思い出したセリーナ姫は、彼らに最大限の敬意をもって接する事を決める!
あ、クレア姫はその話、すっかり忘れてたみたいで、ずっとポカーンとしてたけどね!
そのうち、旅団のリーダーと思われる初老の男が語りかける。
「私の名は、シモンズと申します。北からやって来ました。今年の寒波は例年より激しく、なすすべなく、エレニアにやって参りました……」
セリーナ姫は、一行を城内の暖かい部屋に招き入れ、クレア姫やファビア、従者たちにテキパキと指示を出す。
「暖かいかぼちゃのスープ、それから、日持ちのする食べ物、それからパイも、あるだけ持ってきて!」
皆大忙しで、旅団をもてなす。
シモンズたち北の一行は、暖かいもてなしに涙する。
そして、リヤカーにたっぷりの食料を積んんで、再び北へと帰ってゆく。
もっと後のことですが……
彼らもまた、エレニア王国の運命に関わるのです。
その話は、もう少し、お待ちください。