第三十八話 絶望のプリンセス
希望の光差し込むファビア達。
全てのピースが揃い、後は練度を上げるのみ。
その一方……ベルモント城のクレア姫たちには、絶望の闇がさらに迫りつつあった。
「追加注文だ。20個」
看守が告げる。あれからも、パイを届ける日はたまに訪れる。
その度に、胸が高鳴る。
また、ファビアやシリウスが、たっくさん注文して……「一言でいいから、今度こそは、何か気の利いた事言って欲しいよっ!」
しかし、その期待は毎回裏切られる。
訓練に邁進するファビア達には、囚われのプリンセスたちを気遣う余裕も、再びパイを買い占める銀貨もなかった。
もう期待しない。それでも期待する。
カートを押す。取引所の小屋に入る、その一瞬に僅かな希望を乗せて。
すばやく、部屋を隅から隅まで目を走らせる。
そして、この日も、同じように落胆のうちに、小屋を出て地下に戻る道をとぼとぼと歩く。
名残惜しかったのか、ふと、何気なく後ろを振り向こうとした時……
クレア姫も遂に目にしてしまう。
真新しいロープが括られた、絞首台。
今まで、何となく感じていた死の影。
でもそれは漠然としたものだった。
それが今、はっきりと姿を現し、クレア姫を闇の底に引きずり込む。
「!!」
頭で考えるより先に、全身が反応する。
「……あ……あ」
短いうめき声。体がかたかたと震える。
思わず、地面にうずくまってしまう。
「さっさと歩け!」
看守の怒号が飛ぶ。
必死で、体を起こして、ふらつきながら地下へ戻る。
……きらい、だいっきらい!
ファビアも、シリウスも、だいっきらい!
…………なんできてくれないの!
…………こわい、こわい……こわいよ……
……しにたくない!ぜったい、いやだ!
いろんな感情が、津波のように押し寄せる。
必死に耐える、耐える。
シャフタルの大祭まで、140日……!




