第三十七章 ファルカンの教え子たち
翌日から、さらに訓練は熱を帯びる。
誰一人、弱音一つ吐かない。
ひたすら河原を走り続ける。
ある日、サイラスは指揮をファビアに任せて、アルテリアの市場にいた。
市場の隅っこで、背中を丸めて農産物を売る男。大柄な体をもて余すように、縮こまって何やら野菜とか農産物を売っている。
サイラスは近づいて、耳元まで顔を近づけて囁く。
「……久しぶりだな、カリオス。」
大柄な男は、鋭い目を向ける。
「西地区、道化師の酒場だ。」
サイラスは彼に短くそう伝えて、すぐにその場を離れる。
その後も、色々な所に出向いては、同じように声をかけていく。
「ブラント、久しいな。待ってるぞ。」
「ザガット、西地区だぞ。」
手短に、用件を伝えて去ってゆく。
そう、サイラスは、帝都アルテリアに来てから、密かに、そして地道に、草原の戦いから落ち延びたエレニア兵を探し出し、来たる日に備えて、連絡手段を確保していたのだ!
その日から、酒場に次々とサイラスを訪れる男が現れる。
サイラスは一人一人と抱擁を交わす。
「カリオス!よく来たな!」
「サイラス!!待ちくたびれたぞ!」
その数、総勢10人。
屈強なエレニアの兵士、ファルカンの教え子たち!
サイラスはファビアたちに紹介して回る。
固い握手を交わす。
何の言葉もいらない。
ただ、固い決意だけが、そこにある。
エレニアの大祭まで、160日……!
サイラスの能力と、この日に備えた、周到な準備。エレニアの運命に大きな希望を与える!
……バカとか言って、ごめんね……