第三十五章 走る、走る、走る
酒場での会議は続く。
サイラスは、カルロスに尋ねる。
「部隊を鍛える場所が必要だ。広めの平らな土地がいい。心あたりないか?」」
カルロスが応える。
「アルテリアの西の外れに、河原があります。そこがいいでしょう。」
ファビアが口を挟む。
「怪しまれないか?」
カルロスが応える。
「そうだ、楽団の演奏を鳴り響かせましょう!大祭の練習に見えるように!」
サイラスはカルロスと拳をコツンと合わせる。
「それはいいアイディアだ!宜しく頼むぞ!」
「お任せあれ!偉大なるエレニアのために!」
妙な盛り上がりを見せる二人。
何かウマが合うようだ。
とはいえ、行うのは軍事訓練だ。シリウスは、楽団でごまかせるのか不安に思うが、すぐにそれは杞憂だった事を思い知る。
次の日、アルテリア西の河原。
早朝、日の出とともに、20人近い道化師の集団が現れる。本物の軍の訓練!どんな武器を使うのか?試合とかするのか?期待に胸を膨らませる。
そしてサイラスが現れて、二列縦隊に整列させる。ファビア、シリウスも列に加わる。
そのうち、5人くらいの道化師が、列を離れて楽器を奏で始める。
勇壮な行進曲!すごく雰囲気出る!
サイラスが合図をする。
「全員、走れ!」
二列縦隊の部隊、整列して河原を駆ける。
少しの休憩を挟んで、また走る!
皆、大粒の汗を流して必死に走る。
再び休憩。
ファビアとシリウスも、疲労困憊で河原に倒れ込む。
「ウォームアップだと思うけど……ちょっと長くね?」
「隊列に戻れ!」
サイラスの怒号が響く。慌てて隊列に戻る。
さらに河原を走り続ける。
昼過ぎにようやく一日の訓練を終え、道化師たちは仕事に散ってゆく。
特訓が始まって一週間。
ひたすら走り続ける。
これを見て軍事訓練だと思う人はいないだろう。
色とりどりの道化師が、隊列を組んでひたすら走り続ける……
別の意味で、めっちゃ怪しい……