第三章 ルーサー王の適当な決断
収穫祭の喧騒から数日が過ぎる。
エレニアの西に国境を接する、巨大な帝国シャフタル。
その首都アルテリアにそびえ立つ城の謁見室。
シャフタルの王ルーサーと、将軍エルゲンは、従者の報告をじっと聞いている。
彼は商人に扮して、エレニアの収穫祭に加わっていた。
今、その様子を丹念に報告する。
ルーサー王もまた、辺境の小国に生まれるが、強烈なカリスマと獰猛さでのしあがる。
今や大陸の西部を統一、巨大な帝国を築き上げる。
その野望はとどまる所を知らず、遂にエレニアを含めた東への侵攻を画策する。
従者はとても有能だった。街への道程、城の配置、攻め込む時の補給ルートまで、詳細に報告する。
ルーサー王は聞いてるような、聞いてないような……感じで時折、適当にうなずいている。
正直、圧倒的な戦力で蹂躙するだけでよく、細かな戦術は不要なのだ。
むしろ、戦争を始めるための、正当な理由だけを探していた。
従者は、一通りの報告を終えたあと、肩の荷が降りたのか、ほっとした表情で付け加える。
「ルーサー王、最後にひとつ、細かい事なのですが」
「おう、何なりと申せ」
「収穫祭でパンプキンパイなるものがございまして」
「パイ?」
従者は、調子にのってその甘い香りと、甘く柔らかな味について力説する。
従者は有能すぎたのかも知れない。
その饒舌な語り口も手伝って、ルーサー王とエルゲン将軍は、思わず唾をごくりと飲み込む。
そして、意を決して宣言する。
「余は、東への侵攻を開始する!」
「承知しました!」
「エルゲンよ!準備せよ!」
「仰せの通りに!」
「余はもう我慢ならぬ!パンプキンパイとやらを、食べに行くぞ!」
「は……はは……っ!?」
そんな理由でいいんですか!?
ルーサー王は、感情の赴くまま、衝動的に行動する。
それが敵国の意表を突き、数々の戦果を収めてきた。
ルーサー王の適当な決断は、誰にも止められない!
そして悲劇を生む。
どんな悲劇なのかは、この後に……