第二十七章 嗚咽
アルテリアの西、拠点に戻るシリウス。
いつもの酒場に、大量のパイを抱えて入る。
酒場には、ファビア、カルロス、あと今日の仕事を終えた道化師の仲間数人。一同、大量のパイに目を丸くする。
パイを入り口のテーブルに乱暴に置いて、ファビアの元へ駆け寄り、口角泡を飛ばす。
「クレア姫!確かに見た!この目で!」
「まじかよ!ちょっと、落ち着いて話せよ!」
シリウスがこんなに取り乱す事は滅多にない。
とりあえず、水を一杯。
……
……
シリウスはテーブルのグラスに注がれた水を一気に飲みほし、改めて経緯を説明する。
「間違いない、あの金髪。クレア姫!」
酒場にいた一同、歓声を上げる。
「おおおおっ!クレア姫は、健在だ!」
ファビアも歓喜する。
「クレア姫は、ベルモント城にいるぞっ!」
盛り上がるカルロスたち。
その脇で、シリウスがファビアに頬を寄せて、小声で話しかける。
「ファビア、これはいい話じゃないんだ。」
「どういう事だ?」
「さっき言ったろ。絞首台があったと。」
「ああ、まあ古い城ならあってもおかしくないが。」
「…………」
黙り込むシリウス。
「どうしたんだ?言えよ。」
シリウスは長い沈黙の後、ぼそりとつぶやく。
「真新しいんだ。ロープが。」
「……!!」
ファビアも一瞬で察する。
「それは……」
「そうだ、誰かの処刑が近いんだ。」
ファビアは絶句する。
いつも冷静なシリウスも、動揺を隠せない。
「おれは……なんて甘いんだ……おれが見た商品、どれも一級品だ。クレア姫!王室のみんなは……死の恐怖に耐えて……もう4年も……たえて……」
その後はもう言葉にならず、嗚咽し膝から崩れ落ちる。
「なのに俺は、わざわざこんな所まで来て、いまだに突破口すらつかめない!」
ファビアが、崩れ落ちるシリウスを抱き抱えて、支える。
「何が首席だ!何が天才だよ!そんなの!なんの役にも立ちやしない!」
さめざめと泣くシリウス。
ファビアの頬にも涙が光る。
かける言葉すら思いつかない。ただ無言で、親友を抱きしめる。