第二十六章 一瞬の、邂逅
ベルモント城の地下。
クレア姫たち、囚われた王室の人達は、終わりの見えない中、希望を失わず懸命に生きる。
今日も、いつもと同じ日だった。
作業場で作られた商品は、毎朝その場で兵士に引き渡し、その兵士がカートで取引所の小屋まで運ぶ。
足りない商品があると、兵士が探しに来て、あれば持って行く。なければ売り切れ。ただ、それだけ。
でも、ちょっと違うものがある。
それはパイ。
売り切れて足りない時、さらに客が焼き上がるまで待つ時。年に数回、そんな日がある。
兵士は追加の注文を伝えた後、持ち場に戻る。
だから、その時だけ、追加のパイを焼いた人が、カートを押して取引所の小屋まで運ぶのだ。
独房と作業場以外の場所に行く、唯一の機会。
とはいえ、ただ地下から裏の階段を上がり、小屋の入り口まで行くだけ。余計な仕事が増えるだけだった。
今日、珍しく追加注文が入る。
今日、その余計な仕事は、特別な仕事になった。
「すみません!」
突然の大声で、思わず振り返る。
「この……パイ……やきたて……ですか……」
!!
シリウス!あの声、あの顔。
ファビアの親友、落ちこぼれのファビアをいつも助けてた、おせっかい焼きのシリウス!
一瞬で、時が巻き戻る。
小屋から戻る階段。クレア姫の目から涙がこぼれおちる。
「う……うああん!シリウス!当たり前だよ!やきたてなの、当たり前だよお!……もっと、ほかになんか言うことあるでしょっ!」
看守に怪しまれないよう、階段をおりてから、作業場までのわずかな道のりで、必死に涙をこらえ、何食わぬ顔で作業場に戻る。
仲間のみんなに、こっそりメモを配る。
星座の形に点を打ち、その中心に一番大きな点。
そう、それは夜空に輝くシリウス。
彼の名前の由来。
そして、主席で天才。
たぶん今も、落ちこぼれのファビアを助けながら、何か企んでるに違いない!
あまりにも突然の出会いは、彼女たちの大きな希望となる。