第十四話 吹雪を超えて
吹雪はおさまる気配すらない。
ファビアを先頭に、4人は先を急ぐ。
吹雪で視界が奪われる。
ここを進めば、なんとかなる。
自信はあったが、確信はない。
仲間まで巻き込んで、これで良かったのか?
ファビアは自問自答する。
体力は限界に近い。足の力が抜ける。
「しっかりしろ!」
シリウスが耳元で怒鳴る。
そうだ、しっかりしろ!
少しの迷いは、悪魔のささやきだ。
絶対に、突破する!
その強い意志だけが、未来を切り開く!
しかし、そんな決意などお構いなしに、荒れ狂う吹雪は体力を奪っていく。
列の後方、ヤザンとルバートが遅れ始める。
万事休すか……!
その時、シリウスが叫ぶ。
「誰かいる!人だ!」
確かに、吹雪の中、わずかに動く人影が見える。
その人影は、少しずつ大きくなり、ファビアたちに近づいてるように見える。
吹雪も若干弱まり、その姿が鮮明になる。
5人くらいの、質素な身なりの集団。
ファビアが声を上げる。
「冬枯れの旅団!」
「ファビア様!」
旅団の先頭をゆく、初老の男性がファビアの元へ、雪をかき分けて歩み寄る。
シモンズだ!ファビアが案内して、クレア姫たちがもてなした、旅団のリーダー。
「ファビア様、お待ちしておりました……」
「会えた……ようやく……!」
ファビアは、シモンズに寄りかかるように抱擁する。
シリウスが叫ぶ。
「この先の道で、仲間が待っている!助けて欲しい!」
「すぐに案内してくれ!」
シモンズの後ろには、屈強な体つきの男たちが控えていた。彼らは、慣れた様子でシリウスの後を追う。
ファビアたちは、仲間たちが待つ雪洞へ急いで戻る。
しかし、降り積もる雪ですっかり地形が変わり、雪洞の位置がわからない。
眼をこらして周囲を見渡す。
その時、ファビアの目に一瞬、手を振る人影が映る。
「サルバドールだ!」
皆、一斉にその方向に駆け出す。
「サルバドール!」
シリウスが叫ぶ。
「…………!」
その姿に、皆が言葉を失う。
彼は、手を挙げた姿勢で、雪洞に寄りかかったまま絶命していた。
「雪洞はここだ!掘り出せ!」
サルバドールの遺体を丁寧に、横に運んだ後、全員で一斉に雪を掘る。
「……ファビア……」「助かったのか?」
次々と、中から仲間が引きあげられる。
みな、衰弱しているが、意識はある。
残念ながら、雪洞の奥では、既に冷たくなって動かない仲間がいた。
人数としては5名ほど。
そういえば、ニコルとニコラスの姿が見えない。
どこだ!
雪洞の一番奥、崩れかけの一室に人の姿が見える。
「ニコル!ニコルっ!」
ファビアとシリウス、必死で雪をかき出し、体を引き出す。
彼女は、何かを抱き抱えるような姿勢で、こちらに背を向けた状態で見つかる。
ニコルの体はすでに冷たく、その命尽きていた。
「う……うう……」
彼女が抱き抱えていたもの……それは、最愛の息子ニコラス!
まだ息がある!急いで運び出せ!
彼女もまた、命を賭して息子を守り抜いた。
動ける者全員、総出で雪洞の仲間を助け出す。
彼らのその眼には、涙が光っていた。
気が付けば、吹雪はすっかり弱まり、名残のような細かい雪がはらはらと舞っていた。
冬枯れの旅団の男たちは、手慣れた様子で、歩けない者を引いてきたソリに乗せ、黙々と救出を進める。
すべての準備が整い、動ける者はシリウスの指示で隊列を組む。
最後に、ファビアは振り返って雪洞を眺める。
雪洞はいくつかに分かれて、複雑な形をしていた。
サルバドールは、全員分の雪洞を、命を賭けて作りあげたのだ。
しかも彼ひとり、雪洞の外で、暴風で崩れた箇所を直し、崩落を防ぎ続けたのだ。
ファビアは自分を問い詰める。
「どうして……あの時気づかなかったんだ……」
シリウスが答える。
「サルバドールは、わざと理由を言わなかったんだよ。言ったら、お前は隊の分割を止めただろう。」
「何か、何かもっといい方法があったはずだ……」
ファビアの目から涙がこぼれ落ちる。
膝から崩れ落ちるファビアの体を、シリウスが支える。
シリウスはその体を揺さぶり、抱きしめて答える。
「何言ってんだよ!これ以上の方法なんか、お前の頭で思いつくわけないだろ!」
「う、……うう、こんなとこで、本当の事いうなよお」
「最高だよ!ファビア、これが最高の結果だよ。」
シリウスの目からも、大粒の涙がこぼれ落ちる。
二人は、サルバドール、ニコル、この地で果てた仲間たちに黙祷を捧げ、急いで隊列に戻る。